米債務上限停止 確実な法成立が不可欠だ
大国の責任として、世界経済へ打撃を与える事態は確実に回避しなければならない。法案の速やかな可決、成立が求められる。
米連邦政府が借り入れられる債務の上限について、バイデン大統領と野党共和党のマッカーシー下院議長が2025年1月まで効力を停止することで合意した。
関連法が成立すれば、期間中は上限を設けずに政府が借り入れできるようになる。
米国の債務残高は今年1月に上限の約31兆4千億ドル(約4400兆円)に達した。
6月5日までに債務上限が引き上げられなければ、米国史上初のデフォルト(債務不履行)に陥る可能性があり、世界的な景気後退を招きかねない。
法案は今月31日に採決される見通しだ。可決し、バイデン氏が署名すれば成立する。危機回避に向けた道筋が見えたといえる。
ただ成否はバイデン、マッカーシー両氏が党内の支持をどれだけ集められるかにかかる。指導力を発揮できるか問われよう。
政権と共和党の合意では、24会計年度(23年10月~24年9月)は、国防費を除く歳出を23年度と同水準に抑えることや、低所得者向け支援の就労要件を厳しくすることも盛り込んだ。
両党主流派が賛成できる折衷案といえるだろう。
しかし協議の過程では、共和党はトランプ前大統領に近い保守強硬派「MAGA(マガ)」が妥協を拒み、民主党は急進左派が、共和党の支出削減要求を突っぱねるよう求めた。両党からは妥協への批判が上がる可能性がある。
米議会は上下両院とも与野党の議席数に大きな差はなく、速やかな法案可決には与野党双方の賛成が欠かせない。
協議の難航は、バイデン政権の外交にも影響した。
今月開かれた先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)では、当初バイデン氏の来日が実現するか懸念されたほか、協議に伴い中座を余儀なくされるなど、余裕のなさを印象付けた。
パプアニューギニアやオーストラリアの外遊も取りやめになり、地域で影響力を高める中国にくさびを打ち込む対中戦略にも狂いが生じた。太平洋諸国の指導者からは厳しい声が上がった。
次期大統領選が近づけば与野党対立は先鋭化が予想される。国際社会の安定に向けても、米議会の分断を深めないことが重要だ。
29日の東京株式市場は、債務上限問題での合意が好感して買いが広がり、日経平均株価は3万1200円を超え、33年ぶりの高値水準となった。ただ法案可決に不透明感が残ることもあり、上昇の勢いは続かなかった。
法案の成否は回復基調にある日本経済にも大きく影響する。油断せずに動向を注視したい。
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