[社説]企業は米中分断リスクへの備えを急げ
米中関係の緊張が日本の外交や防衛だけでなく、個々の企業にも直接的な影響を及ぼし始めた。米中2大国の打ち出す貿易規制などの措置が、日本企業にも無視できない経営リスクに浮上する。
経営者は自社の置かれた状況をできるだけ正確に把握し、万一の事態が起きても打撃を最小限に抑える備えを急ぎたい。
米中分断リスクの筆頭が、中国によるいわゆる経済的威圧だ。例えば電気自動車用電池の原料であるグラファイト(黒鉛)について、中国政府は2023年12月に輸出管理体制を強化した。その結果、足元では三菱ケミカルグループなど電池関連企業の国内拠点は原料調達に困難をきたしている。
この状態が一時的か長く続くのかは分からないが、企業としては調達先を多様化し、中国依存度を引き下げる必要がある。
実際に三菱ケミカルはモザンビークなど代替供給地の検討を始めた。電池大手のパナソニックエナジーもカナダの黒鉛企業と共同研究に着手した。時間とコストはかかるが、必要なプロセスだろう。調達先が分散できれば、中国へのけん制材料にもなる。
かつての石油危機も同じだが、資源の海外依存による脆弱性を減らすために、日本の取るべき手立ては備蓄や調達先の分散、代替資源・技術の開発だ。企業だけでなく、政府も含めた官民一体の取り組みが欠かせない。
戦略技術の防衛も重要だ。電子部品などでは日本勢がリードする分野も多いが、どこか1社が海外に合弁工場などをつくると、そこから技術が流出し、業界全体が打撃を受ける恐れもある。
悩ましい問題だが、「この技術は門外不出とする」という業界全体の大まかな合意形成が要るのではないか。競争政策上の問題をクリアするために、必要なら法制面の手当ても検討したい。
一方で米国による戦略技術の輸出規制も日本企業を拘束する。強制力を持つ法規制には従うしかないが、過剰なコンプライアンスに陥り、みすみす商機を失うことも避けたい。
企業側が日米はじめ各国政府に「やみくもに輸出規制を広げるな」と働きかけることも重要だ。その点では米産業界などとも共同歩調を取れるだろう。
2024年は地政学リスクの見極めがこれまで以上に企業の浮沈を左右する年になる。
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