[社説]TikTokの安保リスクに向き合え
米下院が中国発の動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」の利用禁止につながる法案を可決した。運営会社が中国企業であるため、世論工作の道具になるなど国家安全保障上の脅威になり得るというのが立法の理由だ。法案の成否にかかわらず、重要な問題提起だ。
中国は日米や他の民主主義国に対して、偽情報や大量の投稿などによるネット上の「影響力工作」を恒常的に実行しているとされる。中国発のアプリや機器の安全保障上のリスクについて、日本も危機意識を持って議論し必要な対策を練るべきだ。
中国は2017年に施行した国家情報法で、国内の全ての個人と組織に国の情報活動への協力を義務付けている。ティックトックの運営企業である字節跳動(バイトダンス)も、利用者データの収集や世論操作などの協力を国に求められれば拒否できない。
このため米法案は、同社が半年以内にティックトックの米国事業を売却して中国の影響を断ち切らなければ、米国内での使用を禁止するとしている。
ティックトックに表示する動画を選ぶアルゴリズムは、中国で開発・運用されている。ティックトックは米国発SNSに比べ、天安門事件関連など中国当局に不都合な情報の表示が少なく、台湾の民主進歩党に否定的な投稿が多い、などの傾向が指摘されている。
中国発IT(情報技術)に潜む安保リスクは世論工作に限らない。IT機器からネットワークに侵入し、情報を窃取しようとする中国のサイバー攻撃が頻繁に確認されている。
ルーター、監視カメラ、車載カメラや車載音声指示システムなど、ネットにつながる機器(IoT)の基盤ソフト(ファームウエア)はネット経由で遠隔更新が可能だ。秘密裏に利用記録を収集するなどの機能がファームウエアに埋め込まれるリスクを想定して、使用ルールを定めるべきだ。
米英などは政府や軍の支給端末でのティックトック使用を禁止しているが、日本は一部の機密情報端末での制限にとどまる。中国製監視カメラや車両の使用ルール整備も米英より遅れている。
これまで自民党が安保リスクの観点からの中国発アプリの使用ルール整備を提言してきたが具体化していない。総合的な安保リスク対策を検討すべきだ。
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