<主張>米大統領選討論会 「中国」をなぜ語らぬのか
実りある討論会だったとは言えまい。力の信奉者である専制国家が国際秩序を脅かす動きを進める中、世界の平和と安定をどう守っていくのかは、火急の課題だ。
世界一の経済・軍事大国で、最も強い影響力を持つ米国の大統領候補にまず語ってほしかったのは、その覚悟と具体的な政策である。
米民主党のバイデン大統領と共和党の前大統領、トランプ候補による初回のテレビ討論会が行われた。経済や移民対策、人工妊娠中絶など、内政問題が主なテーマとなった。
いずれも生活に直結する、米国民の関心が高いテーマだ。これらが論じられるのは当然だろう。一方で国際秩序の最大の攪乱(かくらん)要因である中国について語らなかったのは問題である。
中国は台湾への軍事力行使を否定せず、頼清徳政権への圧迫を強めている。南シナ海でも中国は、強引な軍事拡張を続け、フィリピンと摩擦を強めている。先端技術窃取の疑いなど、経済安全保障上の観点からも脅威である。
両氏には、9月に予定される次回討論会を含めた今後の論戦で、中国に対する姿勢や政策を語ってもらいたい。
ロシアの侵略を受けるウクライナについても議論は深まらなかった。
バイデン氏は「欧州の大きな戦争が欧州だけで収まったことはない。(侵略は)世界の平和に対する深刻な脅威だ」と述べ、政権が行ってきたウクライナ支援の意義を強調した。
トランプ氏は、「プーチン(露大統領)が一目置くような米大統領だったら侵略はなかっただろう」とバイデン氏を批判した。さらに「次期大統領に決まったら、解決に乗り出す」と発言したが、両氏ともロシア軍の全面撤退や和平を実現する具体策を示したわけではない。
パレスチナ自治区ガザ情勢についても、議論はかみ合わなかった。
トランプ氏は、「イスラエルに最後まで仕事をさせるべきだ」と主張し、自身が大統領だったらガザでの戦闘も起きなかった、と持論を展開した。
討論会で両氏は、互いを「史上最悪の大統領」「噓つき」と呼んで非難した。政策論争ではなく、個人攻撃が目立ったのは残念だ。
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