<社説>大統領選討論会/政策論争はまだ入り口だ
米大統領選で注目された初の「直接対決」は、政策そのものよりも、頼もしいリーダーとしてのイメージを競い合う結果となった。超大国をどう導くのか、今後は突っ込んだ政策論争が求められる。
民主党のハリス副大統領と共和党のトランプ前大統領のテレビ討論会は、非難合戦の様相を帯びた。急きょバイデン大統領の後継候補になったハリス氏に対しては、臨機応変に対応できるのか懐疑的な声があった。だが、ふたを開ければトランプ氏が守勢に回った。選挙戦の重要な節目で、ハリス氏は強さと安定感を打ち出せたといえる。
米メディアCNNの世論調査によると、討論会はハリス氏が勝ったと答えた人が63%、トランプ氏は37%だった。ただ、支持率は拮抗(きっこう)している。選挙の勝敗を左右する中道派や無党派層が投票先を選ぶ決め手になったかどうかは、未知数だ。
有権者の関心が特に高いのは、経済政策である。ハリス氏は物価高対策として食品の価格抑制や、中間層を底上げするために子育て世帯の減税などに取り組むとした。しかし財源を示さず、説得力に欠ける部分があった。対するトランプ氏はバイデン政権下のインフレを「史上最悪」と難じたものの、具体的な政策には踏み込まなかった。
質問をはぐらかす場面は両者に見られたが、トランプ氏からは幾つものうそや誇張が飛び出した。最たるものが「(不法移民が)住民のペットを食べている」との虚言である。人種差別的で社会の分断をあおる内容であり、撤回するべきだ。
さらに、2020年の前回大統領選についてトランプ氏が「敗北を認めない」と主張した点にも驚かされた。世界中が注目する討論会で、民主主義の根幹である選挙への信頼を候補者が自ら傷つける事態に、強い危機感を覚える。
外交面では、トランプ氏が「ウクライナ戦争を終わらせる」と明言したが、それ以上の説明はなかった。パレスチナ自治区ガザ情勢では、ハリス氏はイスラエルの自衛権を支持しつつ、パレスチナとの「2国間共存」を目指すべきだとした。こちらも具体策には触れなかった。失望した有権者は多いだろう。
世界情勢が混迷し、米中競争が激しくなる中、日本をはじめとする同盟国との関係や、国際社会で米国が果たすべき役割について、議論が深まらなかったのは極めて残念だ。
2回目の討論会の可否を巡って両陣営の意見は割れているようだが、実現を求めたい。次こそは政策の中身や実効性に加え、米社会の深刻な分断を修復する方策についても正面から論じてほしい。
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