<社説>トランプ米政権 覇権主義を看過するな
米大統領選で返り咲きを果たした共和党のトランプ前大統領が、閣僚人事に着手するなど、来年1月の政権移行に向けて始動した。
ロシアのプーチン大統領やイスラエルのネタニヤフ首相ら周辺に軍事侵攻している国の指導者とも精力的に対話しているが、トランプ氏はこれまで両氏寄りの発言を繰り返しており、トランプ氏率いる米国が、侵攻の拡大を容認することがないよう注視したい。
米報道によるとトランプ氏は7日、プーチン氏と電話会談し、ウクライナとの紛争を拡大しないよう求めたとされる。ロシア側は会談を否定するが、米ロの対話自体は没交渉だったバイデン政権に比べれば一歩前進かもしれない。
ただトランプ氏は、2022年にウクライナ侵攻に踏み切ったプーチン氏を「天才的」と称賛するなど、プーチン氏寄りの立場を隠さない。14年のクリミア半島併合も容認する。旧ソ連時代から世界を二分する軍事大国として対立してきた米国大統領としては、ロシアへの追従ぶりは異例だ。
侵攻を受けるウクライナへの支援継続には慎重で、支援の必要性を訴えるポンペオ前国務長官を新政権では起用しない考えを表明。ウクライナのゼレンスキー大統領とも電話会談したが、ウクライナ側は、トランプ氏が領土の割譲などロシア寄りの和平案を示すことを警戒している。
ロシアは08年にジョージアにも侵攻し、一部に軍を駐留し続けている。バイデン政権がウクライナへの支援を続けているのは、武力行使を際限なく続けるロシアに歯止めをかける狙いもあるからだ。
トランプ氏が米国の立場を一転させれば、軍事侵攻したロシアを利する。周辺への圧力を強める中国などの覇権主義も助長する、あしき前例となるだろう。
中東の戦火拡大を巡っても、トランプ氏はパレスチナ自治政府のアッバス議長に和平への協力を約束する一方、強く支持するイスラエルのネタニヤフ首相とはすでに3回も電話で会談した。
米国が軍事的な強国の側に立ち、侵攻された側に一方的な譲歩を迫れば、対立の火種は根強く残る。これまで、何度も武力行使を繰り返してきた米国自身も学んだはずだ。世界に広がる覇権主義や暴力の悪循環を、民主主義陣営の旗手を長く自任してきた米国が看過してはならない。
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