<社説>米国の銃撃事件 格差にも目を向けねば
米ニューヨークで4日に発生した大手医療保険会社の最高経営責任者(CEO)射殺事件。銃撃したとされる被告が、英雄視されるなど思わぬ反響が広がっている。
米国の保険、ひいては資本主義がもたらす格差への強い不満が背景にあり、事件は米国の「暗部」を映しだしているともいえる。
現地報道によると、被告(26)は裕福な一族の出身。大きな手術を受けたことがあり、逮捕時に持っていたノートには、米国の医療費が世界で最も高額との不満を書きつづり、CEOの殺害をほのめかす記述があったという。
逮捕後、被告のTシャツが売り出され、弁護士費用のための寄付金が集まった。支持の広がりは一種の社会現象にもなっている。
米国には全国民をカバーする公的な医療保険制度がなく、多くは民間保険に加入する。
医療費とともに保険料も増加しており、米カイザーファミリー財団によると、企業団体保険の2024年の年間保険料は家族加入プランで平均約2万6千ドル(405万円)。大半は企業が支払うが、従業員の負担は約6300ドル(98万円)に上る。
一方、保険会社が保険金支払いを拒否する事例が増加している。加入者の「犠牲」の上に保険会社が利益を上げ、幹部らが巨額の報酬を得ることに理不尽さを感じる米国民は多い。殺害されたCEOの年間報酬は1千万ドル(15億円)を超えていた。
米国では所得額上位10%の金融資産が国民全体の67%を占め、下位50%の資産は2・5%にとどまる。大学の学費は公立でも年間数百万円かかり、進学できず就職で不利になる事例は多い。
持たざる者は持てず、持てる者がさらに持ち続ける構造だ。「アメリカン・ドリーム」は後景に退き、「米国では機会が均等に与えられない」と考える人は14年時点で64%に上る。
トランプ次期大統領は、低所得者向けの補助金拡大など国民皆保険を目指したオバマケアを廃止・縮小する可能性があり、富裕層を含む減税措置を導入する考えも示しており、経済格差はさらに拡大する可能性がある。
殺人や不法行為を正当化することはできないが、被告がなぜこれほどの人気を集めるのか。背景にある行きすぎた資本主義の弊害にも目を向けなければならない。
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