<主張>トランプ氏演説 なぜ侵略と呼ばないのか
トランプ米大統領が議会で施政方針演説を行った。
約100分と歴代最長となった演説は、前政権への批判と政策転換のアピールなど内政に集中し、対外政策に割いた時間はわずかだった。
ロシアによるウクライナ侵略について、トランプ氏は「戦争終結のため精力的に取り組んでいる」と強調した。
トランプ氏が、ウクライナとロシアの停戦を追求すること自体は当然だろう。だが演説で、プーチン露大統領がしかけている戦争を侵略と呼ばなかったことは疑問である。
トランプ氏は「ウクライナでの野蛮な紛争」「残忍な戦争」と語ったが、ウクライナまでそのような戦いをしているとみなしていると受け取られかねない言いぶりだった。
野蛮で残忍な戦争をしているのはロシアで、ウクライナは国際法上正当な自衛権の行使をしている。トランプ氏は「無意味な戦争を終わらせる」とも語ったが、ウクライナにとって主権と領土を守る戦いと犠牲は「無意味」とはいえない。だからこそ米国はウクライナを支援してきたはずだ。
和平の追求は当然としても、誰が侵略者かに口をつぐむのは間違っている。プーチン氏の暴挙を止め、繰り返させないことが真の和平となる。
トランプ氏とゼレンスキー大統領の首脳会談は決裂し、米国はウクライナへの軍事支援の一時停止に踏み切った。
トランプ氏は演説で、ゼレンスキー氏から「重要な書簡を受け取った」と披露した。書簡は「トランプ氏の指導力のもとで和平に取り組む準備がある」とし、署名が見送られた鉱物資源の共同開発に関する協定も「(米側に)都合の良い条件で署名する用意がある」と伝えたという。
この書簡にトランプ氏は「感謝する」と述べた。そうであるなら、ウクライナへの軍事支援を早期に再開すべきである。
バイデン前大統領は、昨年の一般教書演説で台湾海峡の平和と安定の確保に言及したが、トランプ氏の演説にそのようなくだりがなかったのは残念だ。
トランプ氏が目指す「米国の黄金時代」は、専制国家の無法行為を阻む、毅然(きぜん)とした対応や抑止策を抜きには実現しないと気づいてほしい。
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