トランプ氏の起訴 機密持ち帰りは許されぬ
トランプ前米大統領が退任時にホワイトハウスから機密文書をフロリダ州の私邸に持ち帰り、スパイ防止法違反(国防情報の意図的な保持)など計37件の罪で同州の連邦大陪審に起訴された。
トランプ氏は3月にも不倫もみ消し問題でニューヨーク州大陪審に起訴されているが、連邦法違反で米大統領経験者が訴追されるのは初めてだ。
機密文書には米国の核計画や、米国と同盟国の軍事上の「潜在的な弱点」、外国から攻撃を受けた場合の報復計画などに関する情報が含まれていた。
起訴状の通りだとすれば、米国は言うまでもなく、日本をはじめとする同盟諸国の安全保障にも影響を及ぼしかねない重大事だ。司法当局は、真相を徹底的に究明する責任がある。
起訴状によると、トランプ氏は機密情報を扱う資格のない、政治団体代表に米軍が他国で展開する作戦に関する地図を見せたり、取材を受けた出版関係者に国防総省が作成した他国への攻撃計画を見せたりしていた。
弁護団には、機密文書は手元にないと司法省に虚偽の申告をするよう指示していたという。
トランプ氏は起訴について「バイデン政権による恐ろしい権力の乱用だ」と反発した。仮に有罪判決を受けても、来年の大統領選への出馬を撤回する気はないと米メディアに明かしている。
トランプ氏は2020年大統領選を明確な根拠を示さずに「不正選挙」と主張し続け、選挙制度への信頼を傷つけた。今回も一連の起訴を政敵の策略と一方的に決めつけ、支持勢力らに米司法制度への不信を植え付けるような発言を繰り返している。
これらの行為は、米国の指導者を一度は務めた人物として、またその地位への返り咲きを目指す人物として、極めて無責任だと言わざるを得ない。
ロシアによるウクライナ侵略が続き、中国が覇権的な動きを強めるなか、米大統領には、ロシアや中国などの専制主義勢力への対抗軸となる民主主義勢力をリードする力量が求められる。
一方、他の政府要人の自宅などからも機密文書が見つかっている。トランプ氏の起訴が恣意(しい)的な「国策捜査」と見なされないためにも、バイデン大統領らをめぐる捜査も公正に進めてほしい。
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