論説 ウクライナ情勢とロシア 日米欧は対決姿勢貫け
ロシアの侵略と戦うウクライナにとって、2024年は厳しい年になるだろう。期待された反転攻勢が失敗し、米欧諸国はウクライナへの大規模な軍事・経済支援継続にちゅうちょしている。米欧は「支援疲れ」からウクライナを見捨て、ロシアへの事実上の降伏となる「和平」を押し付けてはならない。ロシアに譲歩する「宥和(ゆうわ)政策」に逆戻りすれば、3月の大統領選で勝利が確実のプーチン大統領の思うつぼだ。
かつて英国がナチス・ドイツの領土拡大要求に譲歩し、結果として第2次大戦を招いた教訓を忘れず、米欧と日本はウクライナ支援と対ロ経済制裁を堅持すべきだ。
昨年末にロシア軍はウクライナ全土を空爆し、年明け以降も攻撃を続けている。米欧の支援停滞でウクライナ軍は砲弾不足に苦しんでおり、兵器、弾薬を集中的に生産するロシアは優位にある。ロシアを勝利させないため米欧はウクライナ支援を継続するが、規模の縮小は避けられない。24年にウクライナは防衛専念を迫られそうだ。
12月末に一部の米有力メディアが「プーチン氏が現在占領するウクライナ領土約2割を維持することを条件に、停戦の用意を伝えてきている」と報じた。全領土の奪還を掲げるウクライナのゼレンスキー大統領が応じるはずがない。
ロシアがウクライナに事実上の全面降伏を求める裏で柔軟な姿勢も示唆するのは、「領土を犠牲にしてもロシアと和平交渉に臨むべきだ」との声がウクライナ国内や米欧で出ていることを意識しているからだ。
11月の米大統領選に向け、ウクライナ支援に後ろ向きな共和党のトランプ前大統領返り咲きの可能性がささやかれており、プーチン氏は、米欧がいずれウクライナにロシアへの譲歩を迫ると見越しているようだ。
だが米欧や日本は、ロシアの領土拡張要求がウクライナだけで終わらない事態を想定しておくべきだ。
「ウクライナは元々ロシア領土だ」と主張し侵略に踏み切ったプーチン氏は、「ロシアの歴史的版図の回復」という危険思想の信奉者だ。「次は(旧ソ連領だった)バルト3国」との懸念がくすぶる。「プーチン氏がウクライナに勝てば、次は北大西洋条約機構(NATO)加盟国を襲う」とのバイデン米大統領の警告には理由がある。
2000年に大統領に就任したプーチン氏は、出身母体の秘密警察を使って野党や独立メディアを弾圧、自らに権力を集中させた。20年夏の憲法改正で独裁体制を完成させ、さらに2期12年の続投を可能にした。
ロシアの選挙は体制が完全に統制しており、3月にプーチン氏の通算5期目の続投が決まるのは確実だ。ただ、米欧にはロシア大統領選の合法性を疑問視する声があり、今後、プーチン大統領の正統性を認めるかどうかが焦点となろう。
米欧は核大国ロシアを刺激しないよう宥和政策を取り続けた。北方領土交渉を優先した日本も同じだ。08年のグルジア紛争、14年のウクライナ南部クリミア半島の併合など、ロシアの旧ソ連諸国への軍事介入に厳しく対応せずにプーチン氏をつけ上がらせ、ウクライナ侵攻の一因となった。日米欧は同じ過ちを繰り返すことなく、ウクライナ侵略戦争を仕掛けたプーチン氏への毅然(きぜん)とした対決姿勢を貫くべきだ。
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