[ノーベル受賞演説]
無理がある武力肯定論
米国のオバマ大統領はノーベル平和賞受賞演説で、「戦争のただ中にある国の最高司令官」が受賞する問題点を自ら指摘した。「武力は時に必要」と述べるなど、イラク、アフガニスタンでの戦いを正当化した。
大統領が世界に発した核廃絶のメッセージが、「対話と交渉を重視する新たな流れを国際政治にもたらした」(ノーベル賞委員会)と評価された。具体的な実績はまだ乏しいが、平和実現への国際的な期待を表したのが今回のノーベル賞だった。
米国は世界の軍事費の約6割を拠出している軍事大国であり、二つの戦争を遂行中だ。多くの若者を戦場へ送っている大統領としてその任務を否定することは許されないのだろう。「テロとの戦い」を主導した前政権の路線を否定したオバマ氏の出現で、世界的な「世替わり」を期待した国際社会にとっては重い問いかけとなった。
国際的な注目とは裏腹に米国民は平和賞に冷ややかだ。米研究機関の世論調査によると、オバマ氏は平和賞に「ふさわしくない」との回答が66%に上った。「ふさわしい」は26%で、受賞に値する具体的な成果がないことが低い評価となった。
1日にアフガンへの3万人増派を決めたばかりの「戦時大統領」に対する不安もあるだろう。イスラム諸国では「平和と矛盾する動きだ」と増派決定への反発が高まる。
戦時大統領の主張と、国際協調外交を志向する平和のメッセージは相反しており、うなずけない。
「交渉ではアルカイダの指導者たちに武器を置かせることはできない」「戦争の手段というものは、平和を保つ上で役割がある」
近未来において地球上から暴力を伴う紛争を根絶することはできないという現実主義を強調した。人間は不完全であり、理性にも限界があることを歴史が証明していると論じた。
それでもオバマ氏は「戦争そのものに栄誉はなく勝ち誇るものではない」と暴力への依存を否定する。
「戦時大統領への平和賞」に向けられる批判にも応えようと腐心する姿がうかがえる。しかし先制攻撃で始めた二つの戦争を続けることに国際社会の目はなお厳しい。
アフガンは増派後に兵力が約10万人に膨らむ。2011年夏ごろに撤退を始めるが、終わりが見通せない。イラクを合わせた戦費は1兆ドルに迫り、経済的なゆとりはなく、米国内に厭戦(えんせん)気分が広がる。
国際社会に協力を呼びかけるオバマ氏は、「責任ある国は、軍隊が平和維持に果たす役割を認める必要がある」と語った。
「悪の枢軸」との言葉で世界を敵味方に分けたブッシュ路線とダブるのは、オバマ氏が「悪は世に存在する」ことを理由に武力行使を是認したことだ。核廃絶という理想を掲げた平和主義者のイメージが揺らぐ。
「戦争終結のための戦争拡大」という論理は共感できない。「対話と交渉」の真の実行者たるべきだ。
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