社説:人民元問題 米中の巧妙な衝突回避
鳩山由紀夫首相が滞在中のワシントンでは、オバマ大統領と胡錦濤国家主席による米中首脳会談も行われた。中国の人民元をめぐる両国の対立がどこへ向かうかに関心が集まったが、両首脳は自国の立場を主張しつつも、関係修復のため互いに歩み寄る姿勢を見せた。米中の衝突が回避され、人民元改革への環境が改善したといえそうだ。日本も含め世界にとって歓迎すべきことである。
中国は2005年夏以降、人民元の対ドルレートを段階的に切り上げたが、08年の金融危機後は1ドル=6・8元台に事実上固定している。このため、失業率が高止まりした米国では、中国による人為的な元安が廉価な中国製品の大量流入をもたらし米国の雇用を奪っている、といった“人民元主犯論”が広がった。
特に中間選挙を控えた連邦議会では、超党派議員130人が中国への対抗措置をオバマ政権に書簡で要求するなど、対中強硬派の動きが先鋭化していた。
人民元が、市場実勢を反映した柔軟な為替相場制へと移行することは中国経済にとっても世界経済にとっても長期的に望ましい。しかし、通貨を切り上げるよう外国が圧力をかけるのは、逆効果である。国内で外圧に屈したとの印象を持たれたくない中国当局はかえって動きづらくなるし、ひとたび前例を作れば投機の対象にもなりかねない。外圧は制裁が制裁を呼ぶ貿易戦争へと発展する危険もはらむ。そもそも、人民元を切り上げたところで、米国の雇用が改善するものではない。
その意味で、オバマ政権が中国を「為替操作国」と名指しするかどうか注目された外国為替報告書の議会提出を見送ったのは、賢明な決断だった。中国も首脳会談のタイミングに合わせるように、ハイテク製品の政府調達で外国企業の参入につながる方針転換を表明した。両国政府が首脳会談に備え周到な地ならしを重ねた印象である。
今後、中国は慎重にタイミングを計りながら、段階的に人民元の上昇を容認していくのだろう。ただ、元切り上げで、貿易不均衡や中国経済の抱える課題が解決するわけではない。むしろ目を向けるべきは、低い労賃や不透明な金融の仕組み、未整備の社会保障制度など中国製品を割安にしている構造上の問題である。国有企業を中心に滞留している利益を、国民に還元する改革が経済の安定成長には不可欠だ。
2国間交渉で為替問題を扱うより、G20など多国間協議の場で中国に構造改革を促していく方が、はるかに有益だろう。日本も自らの経験をもとに貢献できることが少なくないはずである。
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