普天間先送り―現実的な選択ではあるが
せいては事を仕損ずるという。
菅直人首相が重いバトンを引き継いだ沖縄県の米海兵隊普天間飛行場の移設問題である。
名護市辺野古への建設で合意した代替滑走路の具体案について、日米両政府は月末にまとめる報告書ではひとつに絞らず、双方が主張する複数案を併記する方向だ。最終案の決定は11月の沖縄県知事選以降に先送りする。
菅首相は「日米合意の実行は内閣の意思だ」としつつ「(地元の)頭越しの決着は考えていない」と明言した。
普天間の危険は、できるだけ早く取り除きたい。しかし、県民の理解を得られないまま、しゃくし定規に日米合意の履行を急げば、かえって事態はこじれる。両政府の判断は、ひとまず賢明で現実的な選択だろう。
ただ、辺野古移設が厳しい政治状況は変わるまい。名護市長は、いかなる工法であれ、受け入れには反対だ。県内移設に反対する知事が誕生すれば、可能性はさらに狭まる。
なにより、米軍基地の75%が集中し続ける過重な基地負担を「沖縄差別」と感じ、県外・国外移設を強く願う県民世論がやわらぐとは考えにくい。
結論の先送りで、普天間問題を知事選の争点からぼかそうと政府がもくろんでいるとするなら考え違いである。
いま、政府がなすべきことは、沖縄との信頼関係の再構築に向け、具体的な一歩を踏み出すことだ。
沖縄の負担軽減、基地の危険性の除去と安全保障上の要請をともに満たす解答は、簡単には見つかるまい。どんな打開策を探るにせよ、沖縄の一定の理解がその土台になければならない。
政府が検討中の沖縄との協議機関の設置について、仙谷由人官房長官は辺野古移設受け入れが前提になると受け取られかねない発言をした。
しかし、負担軽減と、今も残る本土との格差是正のための振興策は、普天間問題の進展にかかわらず、取り組むべき責任が政府にはある。前提条件をつけて進めるような話ではない。
菅首相は再三、沖縄の負担軽減に取り組むと述べている。日米間の移設先の協議に先行して、その実現に力を尽くさなければならない。
普天間周辺住民の騒音被害に対し、国に賠償を命じた普天間爆音訴訟の二審判決は、夜間・早朝の飛行制限を盛り込んだ日米両政府の騒音防止協定が「形骸(けいがい)化している」と厳しく指摘した。騒音の軽減に向け、政府は米国に対し強く問題提起すべきだ。
沖縄の海兵隊8千人のグアム移転についても、米国政府は2014年までの実現を事実上断念した。受け入れ態勢が整わないからだという。
地元の負担と基地の危険はいつまで残るのか。日米政府が知恵を絞らなければならないのはこれからだ。
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