通貨安競争 不均衡の是正で残った火種(10月24日付・読売社説)
先進国と新興国がひとまず対立を封印し、「通貨安競争」を回避する決意では一致した。
しかし、摩擦を食い止める具体策では、不均衡の是正を求める米国と韓国の共同提案を巡って、各国の足並みの乱れが露呈した。為替の安定へ、なおも綱渡りが続くだろう。
日米欧と中国、インドなどが参加した世界20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、共同声明を採択し、閉幕した。
共同声明は、焦点だった通貨安競争について、「市場が決める為替相場に移行させる。競争的な通貨切り下げを回避すべきだ」と明記したのがポイントだ。
為替相場の過度な変動を監視することで、投機マネーが新興国の通貨高やインフレを招くリスクを軽減できるとの見解も示した。
米国と欧州が、輸出に有利な通貨安を事実上容認し、急激な円高・ドル安やユーロ安が進んだ。中国は大規模な為替介入で人民元を安価に抑え、投機マネーの流入に対し、韓国、インド、ブラジルも自国通貨安に誘導している。
先進国と新興国が、世界経済に打撃を与えかねない保護主義的な動きに懸念を共有し、政策協調を打ち出したのは当然である。
しかし、波乱要因となったのが米韓による突然の共同提案だ。
各国は、「経常収支の黒字または赤字を2015年までに国内総生産(GDP)比で4%以内に制限する」という内容だった。
米国は、経常収支を数値目標で縛り、中国に黒字縮小と、人民元の切り上げを求める圧力をかけようと狙ったようだ。
だが、4%以上の黒字を抱える中国などが反発し、数値目標は声明に盛り込まれなかった。
その代わり、声明は、「経常収支を持続可能な水準で維持する政策を実施する」と強調した。
数値目標が導入されれば、経常黒字国の日本は一段の円高を迫られかねない。管理貿易を助長する副作用も懸念される。数値目標の見送りは妥当だろう。
ただ、声明が、経常収支水準を是正するガイドラインを策定するとした点には、注意する必要がある。ガイドラインの中身を決める今後の協議では、米韓の主張が蒸し返される恐れがあり、火種が残った形だ。
リーマン・ショックから2年たち、世界経済の足取りはまだ不透明だ。来月のG20サミットでは、通貨摩擦を防ぐ政策協調を具体化し、持続的成長を実現する首脳たちの決意が問われよう。
(2010年10月24日01時12分 読売新聞)
Leave a Reply
You must be logged in to post a comment.