菅外交と安保 危機克服へ日米同盟の深化を(1月6日付・読売社説)
日米同盟は今、二つの試練に直面している。
一つは、一昨年秋の鳩山政権発足以降、悪化していた日米関係の立て直しだ。もう一つは、中国、北朝鮮を含む東アジアの安全保障情勢の悪化への対応である。
菅内閣は、これらの試練をいかに乗り切るのか。政権の命運にも直結しかねない日本外交の最重要課題だ。本腰を入れて、取り組まなければなるまい。
◆「普天間」前進が重要だ◆
より強固な日米関係を再構築するためのカギは、今春に予定される菅首相の訪米と、日米同盟の深化に関する共同文書の公表だ。
共同文書は当初、安保条約改定50周年の昨年に発表する予定だった。だが、鳩山前首相が無責任に「対等な日米同盟」を唱え、米軍普天間飛行場の移設問題を迷走させた結果、同盟深化の作業が遅れ、先送りされてしまった。
無論、肝心なのは文書の発表自体ではなく、その内容だ。
1996年の日米安保共同宣言は、日米同盟が冷戦後もアジアの安定と繁栄の基礎であり続けることを再確認し、日米防衛協力指針の見直しを打ち出した。
新たな共同文書も、21世紀における、より高度な日米防衛協力のあり方を明示し、その後の具体化作業につなげることが肝要だ。
同時に欠かせないのが、やはり普天間問題の前進である。
沖縄県の仲井真弘多知事は昨年11月の知事選で、「県外移設」を公約に掲げて再選された。客観情勢として、知事を県内移設に翻意させるのは簡単ではない。
だが、それを理由に、菅政権が従来のように無為無策でいることは許されない。知事らへの説得の努力を倍加する必要がある。
普天間移設と海兵隊8000人のグアム移転を完遂することは沖縄にとって画期的な負担軽減となる。返還される広大な米軍施設跡地をいかに有効活用し、新たな沖縄の未来を築くのか、政府は沖縄側と真剣に話し合うべきだ。
在日米軍再編では他にも、米軍厚木基地の空母艦載機の岩国基地移駐など重要案件が残っている。これらの着実な実行が日米同盟の信頼性と持続性を高めよう。
◆対中戦略の議論深めよ◆
北朝鮮による韓国艦船と延坪島への攻撃、中国による尖閣諸島沖の漁船衝突事件や海軍ヘリの自衛隊艦船への異常接近……。昨年は日本の安全保障にかかわる事件が相次いだ。今年も、同様の事態が発生しても不思議ではない。
対北朝鮮・中国外交の基盤としても、軍事的抑止力としても、日米同盟の重要性は増している。
北朝鮮の核・ミサイルの脅威への対処や、中国と周辺国のあつれき軋轢が続く東シナ海や南シナ海での安全確保のルール作りには、日米両国に韓国や豪州、インドなどを加えた多国間連携の強化が重要だ。
特に大切なのは韓国との関係である。日米、日韓、米韓の中で最も弱いのが日韓関係だろう。
幸い李明博政権の発足以来、日韓関係は極めて良好だ。李大統領の公式来日時には、政治や安全保障に関する共同文書を発表してはどうか。朝鮮半島有事における邦人退避の計画策定や日韓協力についても議論を深めたい。
経済、軍事両面で大国化した中国に、責任ある行動を促すことは、日米共通の課題である。東アジアの安全保障も、地球規模の環境、エネルギー問題も、中国抜きでは解決が困難だろう。
中国が国際協調行動に呼応し、国力に見合う役割を果たすよう、どう働きかけるのが効果的か。日米間で緊密に対話を重ね、中長期的な戦略を練ることが肝要だ。
外交努力と並行して、日本の防衛体制の強化も欠かせない。
昨年12月に決定した新たな防衛大綱は、「動的防衛力」を新概念として打ち出した。南西諸島への陸上自衛隊部隊の配備や潜水艦の増強などを通じて、警戒・監視活動を強め、様々な事態への対処能力を高めることが求められる。
◆医官をアフガンへ◆
自衛隊の国際平和協力活動も拡充すべきだ。アフガニスタンへの自衛隊医官の派遣は、インド洋での給油活動の終結に伴って離脱した国際社会の「テロとの戦い」に復帰する重要な意味を持つ。
昨年はスーダンでの国連平和維持活動(PKO)への陸自派遣を見送ったが、南部スーダンで新たな復興支援型PKOが始まれば、今度こそ派遣を実現したい。ソマリア沖の海賊対策では、P3C哨戒機の増派が効果的だろう。
日本が安全保障面の役割をより能動的に果たすことは、日米同盟の深化にも役立つはずだ。
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