A Big Tent Republican Party

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ビッグ・テントの共和党

調査研究本部主任研究員 飯山雅史

 アメリカ人の選挙好きもたいしたもので、中間選挙が終わったばかりだというのに、もうワシントンは2012年11月の大統領選挙に向けて走り始めている。2月10日から3日間、首都のホテルには約1万人の保守派共和党支持者が集まって、カーニバルのような熱気の中で、次の大統領選挙候補の品定めを始めていた。

 開かれたのは「保守政治活動会議(CPAC)」という保守派の集会だ。1964年以来、毎年開催されている伝統ある集まりで、以前はニクソン大統領(当時は相当な保守派と呼ばれていた)をリベラルだと攻撃するような超保守派グループの集まりだった。もっともレーガン大統領以降は、共和党がCPAC路線の方に近づいていったので、今では共和党の最も正統的で最大規模の支援集会となっている。共和党から大統領選挙出馬を狙う政治家は、この会議に出席して自分の”保守度”をアピールし、参加者による人気投票の洗礼を受けるのが習わしだ。

 ところが、今年はちょっとした異変が起きている。この保守派の集会に、同性愛者の権利を主張する共和党支持者の団体「GOProud」(ちなみに、GOPというのは共和党の別名である)が招かれたのだ。同性愛者の結婚を違憲とする合衆国憲法修正の実現を目指す、アメリカの宗教右派にとって、同性愛は人工妊娠中絶と並ぶ最大の攻撃対象だ。だから、昨年暮れ頃からGOProud参加の噂が流れると、「家族研究評議会」や「アメリカを憂慮する女性たち」など名だたる宗教右派団体から激しい抗議が巻き起こり、宗教右派のスターで、大統領選挙出馬に意欲を示すサラ・ペイリン元アラスカ州知事や、マイク・ハッカビー元アーカンソー州知事(福音派の牧師)は出席を取りやめてしまったのだ。この異変に、次の選挙に向けた共和党の苦悩が表れている。

 共和党は保守主義の党だが、一口に保守主義と言っても大きく分けて3つの流れがある。極端な減税と政府予算削減を主張して「小さな政府」を目指すリバタリアンと言われるグループ(前回の中間選挙で台頭したティーパーティー運動はその典型)と、外交面で強いアメリカを主張する「外交タカ派」、そして、プロテスタント倫理に基づいたモラルの復活を目指す「宗教保守派」だ。ところが、この3つすべてに同調する“完璧な保守主義者”はそれほど多くはない。特に、リバタリアンは、政府が個人の信仰に干渉することを毛嫌いし、人工妊娠中絶や同性愛を政治のテーマとすることに反対する人も多い。だから、宗教右派はアメリカの保守運動に分裂をもたらす、やっかいなグループなのである。

 そこで、今年のCPAC主催者が狙ったのは「ビッグ・テント」の共和党だった。次の選挙に向けていろいろな保守主義者が一同に集うことができるようにテントを大きくし、共和党の支持基盤を広げていこうというメッセージを込めて、あえて同性愛者支持団体を引き込んだのである。

 しかし、宗教右派からの反発は小さくない。戸別訪問やビラ配りの実働部隊となり、膨大な福音派信徒を投票に動員してくれる宗教右派を抜きにして共和党選挙戦略は立案できない。ティーパーティー運動が台頭してきたといっても、その動員能力は未知数だ。宗教右派をテント内に留めつつ、どうやって中の平和と団結を保つのか、共和党指導部の思案のしどころである。

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