Though the Leader Was Overthrown, the "War on Terror" Continues

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指導者倒しても「テロとの戦い」は続く

2011/5/3付

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 米軍が国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者を潜伏先のパキスタンで殺害した。2001年9月の米同時テロを首謀し、イスラム過激派の国際ネットワークの中心にいた人物を倒したことで、10年におよぶ米国の「テロとの戦い」は大きな成果を上げた。

 だが、これでテロの脅威が消えるわけではない。テロ根絶に向け国際社会は連携を続ける必要がある。

 アルカイダはビンラディン容疑者を頂点としたピラミッド組織ではない。同容疑者の主張に同調する各地の過激派がゆるやかなネットワークで結びつき、テロを繰り返してきた。今後もテロを続ける可能性は大きいし、同容疑者を欧米との「聖戦の犠牲者」と位置付け、各地の過激派が報復テロを企てる懸念も強い。

 インターネットの普及はテロの姿を変えた。ネット上には過激な主張があふれて賛同者を国境を越えてひき付け、欧米に住むイスラム教徒の一部がテロに走る傾向も目立つ。

 その背景には、人口増が続くイスラム諸国の若年層の失業問題や、米同時テロ後に米欧で強まったイスラム教徒排斥の社会潮流もある。軍事力では解決できないこうした要因を認識したうえで、国際社会はこれからもテロの阻止に向けた広範な取り組みを進めなければならない。

 自国が同時テロの標的となった米国はアフガニスタンに軍事介入し、アルカイダを保護したタリバン政権を倒した。イラクの旧フセイン政権も打倒した。だが、軍事力による中東・イスラム世界への介入と、その泥沼化は、一方で米国の国際的な影響力の低下を招き、巨額の軍事費が財政を圧迫する結果になった。

 7月からアフガニスタン駐留米軍の撤退が始まる予定だ。節目でのビンラディン容疑者殺害は、テロとの戦いを見直すきっかけともなる。

 軍事介入は米国とイスラム世界の間に深刻な亀裂を生んでいた。就任直後の09年にカイロで演説したオバマ米大統領は、イスラム社会との和解を訴えたが、その成果は乏しい。大統領は中東和平の推進も含め、イスラム世界との関係再構築に一段と精力的に取り組むべきだ。

 チュニジア政変をきっかけに中東で反政府デモが広がっている。デモ参加者は政治的権利の拡大や汚職の一掃などを求めており、議会制民主主義を否定するイスラム過激派の主張とは一線を画している。だが、政治の混乱が長引くと過激派に勢力伸長のすきを与えかねない。各国の指導者は民主化要求に耳を傾け、混乱を早期に鎮めるよう求めたい。

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