ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんと米国のクリントン国務長官がヤンゴンで握手し夕食をともにした。半年前には想像できなかった光景である。
テイン・セイン大統領と会談した長官は、政治犯の一部釈放や民主化勢力との対話など一連の措置を歓迎し、外交関係の格上げを検討すると表明した。
一方で改革は始まったばかりだとして経済制裁の解除には踏み込まなかった。北朝鮮との軍事協力には強く釘を刺した。
今回の訪問は、アジア太平洋地域を「最優先」と位置づけるオバマ大統領の安保新戦略の第一歩といえる。軍事政権による独裁体制を長年続けた国が民主化を着実に進めれば、米国や同盟国の大きな利益となる。
しかし、かつての軍幹部が主要ポストを独占する現体制の行方を完全には楽観できない以上、制裁解除を時期尚早とした米政府の判断は妥当といえる。
地政学上重要な位置にあるミャンマーで影響力を増す中国を牽制(けんせい)する狙いも米国にはあろう。制裁を続けるうちに、中国はミャンマー南部の港湾を整備し、雲南省につなぐ天然ガスパイプラインを建設している。
ミャンマー政府は9月、中国の支援で北部に建設中のダム工事の凍結を決めた。中国一辺倒の姿勢に変化の兆しがみえたとして米国などは歓迎している。
外交を多角化させ、米中間のバランスをとろうとするミャンマー政府の姿勢が、結果として民主化の促進につながるのであれば歓迎したい。
スー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD)は法改正を受けて政党登録をすませた。スー・チーさん自身も来年に予定される国会の補欠選挙に立候補すると表明した。
90年の総選挙でNLDが圧勝しながら軍政に黙殺された経緯や、補欠選挙で勝っても議席は国会の10分の1に満たないことから、民主化勢力の内部にもこの決定を疑問視する声がある。
だがこの機会を逃せば、先の展望が見えないことも事実だ。苦渋の決断と想像できる。その先には15年の総選挙で勝利をめざす思いがあるはずだ。
民主化が定着したというには、政治犯の全員釈放、少数民族との和解に加え、軍の支配構造を支える憲法が改正されなければならない。新政権には大胆な妥協を望みたい。
玄葉外相や枝野経済産業相が相次いで現地入りする。援助や経済交流促進の前提として、民主化の着実な進展を見極める必要があることを指摘したい。
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