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普天間問題 県民の心と政局弄ぶな 「撤去」で首相の大局観を

 野田佳彦首相をはじめこの国の中枢にいる政治家、官僚に求めたい。口先だけの謝罪や、問題の表層だけをあげつらって、県民の心や政局を弄(もてあそ)ぶのはやめてほしい。

 米軍普天間飛行場の移設計画に伴う環境影響評価(アセスメント)評価書提出をめぐる田中聡前沖縄防衛局長の暴言問題は、本人の更迭にとどまらず、一川保夫防衛相の進退問題に発展する雲行きになってきた。

 暴言問題の本質は、アセス手続きを性的暴行にたとえ「犯す前に、これから犯しますよと言いますか」と述べ、女性や県民を侮辱した前局長のゆがんだ沖縄観と人権感覚、「基地のない、平和な島はあり得ない」と言い切った偏った歴史認識にある。

◆問題のすり替え

 監督責任などで最高責任者が責めを負うのは当然だが、大臣の適格性だけに問題をすり替えてはならない。

 県民は、今回の暴言を深く悲しみ、怒っている。容易に拭い難い疑念も抱いている。今回の暴言は、一官僚の“舌禍”というより、防衛官僚の本音、官僚組織の体質を反映しているのではないか、と。

 一川防衛相は、仲井真弘多知事と会談し、暴言について「許し難い」「人道的にも由々しき発言」と問題視し、謝罪した。国会審議で1995年の米兵少女乱暴事件の「正確な中身は詳細には知らない」とした件は「詳細に説明する事案ではないと思い、ああいう発言となった」と釈明した。

 県民は言い訳など聞きたくない。勉強不足を素直に認め「心を入れ替え、県民の意をくんで全力で取り組む」となぜ言えないのか。

 防衛相は「不適切発言は大きな課題。県内の防衛省、自衛隊の職員の任務に悪影響のないようしっかり責任を果たす」とも述べたが、ピント外れも甚だしい。

 防衛政策や職員への悪影響を心配する前に、普天間問題の発端とも言える95年の事件について十分な説明を怠った、沖縄問題に関わる官僚組織の職務怠慢は問題にならないのか。

 暴言に対する県議会の抗議決議は防衛相の「任命責任」を追及すると同時に、「沖縄の基地問題に対する防衛省や国の姿勢が問われる」と指摘。そこには官僚組織に潜む構造的な差別体質を改めない限り、根本的な問題解決にはならないとの問題意識が見て取れる。

 この点を、野田政権や与野党各党も看過してはならない。

 県民は熟議を重ねた末、県知事選や県議選、名護市長選、国政選挙で普天間飛行場の名護市辺野古移設に「反対」の審判を下した。

 政権や与野党各党は、大多数の民意を正面から受け止めてほしい。これが原発建設ならば、政府はこれだけ民意がはっきりしていても建設を強行するだろうか。民意無視の不条理に気付くべきだ。

◆障壁は安保マフィア

 米側の環境も厳しい。米上院は1日の本会議で、普天間移設計画と連動する在沖米海兵隊のグアム移転関連経費1億5千万ドル(約117億円)の支出を認めない、2012会計年度国防権限法案を可決した。今後、政府支出を認めた下院と法案の中身を最終決定する協議に入るが、民主、共和両党の有力議員が普天間移設の実現性を強く疑問視しており、移転関連経費の行方は不透明な情勢だ。

 マイク・モチヅキ氏ら米国の日米関係・安全保障の有力専門家が在沖米海兵隊の米本土移転を主張し、従来の米軍再編計画そのものに懐疑的な見方を強めている。

 96年に県内移設条件つきの普天間返還を主導した元米国防次官補のジョセフ・ナイ氏も、最近の論文で県内移設に関し「沖縄の人々に受け入れられる余地はほとんどない」と分析し、訓練環境が整うオーストラリアへの海兵隊移転を「賢明な選択だ」と提唱した。

 辺野古移設にこだわるのは事実上、06年の米軍再編合意に参画した当事者か、その流れをくむ一部の官僚だけだ。これら「安保マフィア」こそが日米関係正常化の障壁ではないか。米側有識者の変化、沖縄の民意を直視し、「県外・国外移設」を追求することが普天間の危険性除去と日米関係改善の早道だ。

 野田首相は目先の利害にとらわれず、大局観を示す時だ。政策の民主主義的正統性を担保するという道理に従い、日米合意見直しをオバマ大統領に求めてほしい。

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