水説:石油ブームの米国=潮田道夫
<sui-setsu>
米国のガソリン価格が急騰している。いま全国平均で1ガロン(約3・8リットル)=3・9ドルぐらい。1リットルで84円見当。日本よりだいぶ安いが、車なしではスーパーに行けない人も多い米国では大問題だ。
08年に原油が高騰して1バレル=145ドルの狂乱状態になったとき、ガソリン価格は4・1ドル前後だった。あの水準に近づいている。このままだと再選が危ういのでオバマ大統領があわてている。
野党の共和党が中傷まがいの攻撃を仕掛けている。
「環境派のオバマ大統領は国民に自然エネルギーを使わせるため、わざとガソリン価格を上げている」
そんなことはない。オバマ大統領はもはや環境の「カ」の字も口にしない。国内の陸地といわず海底といわず、石油が出そうなところは環境汚染など構わず、どんどん採掘許可を与えている。
例えばカナダに隣接するノースダコタ州バーケンでは、シェールオイルの大開発が始まった。硬い頁岩(けつがん)に含まれる石油が水圧破砕法という新手法で取り出せるようになったのだ。ここはアラスカの油田に次ぐ画期的大油田になりそうだという。
国中を掘り返した結果、70年(日量960万バレル)をピークに下降曲線をたどっていた米国の産油量が、近年急上昇している。85年には同490万バレルに落ち込んでいたのが、いま同570万バレルのペース。強気筋はいずれ同1000万バレルなどという。サウジアラビアやロシアと産油量世界一の座を争うだろうと。
さて、それはどうか。科学雑誌「ネイチャー」の1月26日号に掲載されたオックスフォード大学のデビッド・キング教授とワシントン大学のジェームズ・マレー教授の「石油は転換点を越えた」によればシェールオイルは所詮、あだ花に過ぎない。
世界の既存油田の産油量は年々4・5~6・7%も減少し続けており、シェールオイルやタールサンドなど非在来型石油の生産も焼け石に水だという。産油量はこれまで、石油価格の上昇とともに拡大してきたが、05年以降は年率15%ずつ価格が上がっているのに生産が増えていない。
両教授は世界の石油産出量は05年に天井に達した、つまりピークオイルを迎えたと結論する。「現在はかろうじて横ばいの高原状態」である。
世界景気が上向いてきたのに水を差すようだが、警告に耳を傾けたい。「米国の戦後の景気後退11回のうち、10回まで、それに先立って石油が値上がりしている」。とすれば、今回の石油高騰の帰結も明らかであろう。警戒を強めるべきだ。(専門編集委員)
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