米国防戦略 アジアの緊張高めるな(3月16日)
財政難だからといって、安全保障分野で同盟国への依存度を高めようとするのは身勝手だ。
米国防総省が発表した「4年ごとの国防戦略見直し(QDR)」は軍拡著しい中国の海洋進出に対抗するため、「アジア重視」の姿勢をあらためて強調した。
在日米海軍の強化を含め、2020年までに海軍艦船の6割を太平洋に重点配備し、日本や韓国、オーストラリアなどとの同盟関係を深めるという。
だが、これでは米中の対立に周辺国が巻き込まれる危険を高めるだけだ。アジア太平洋地域の軍事的緊張を下げる努力こそ大切だ。
ヘーゲル国防長官は「今回のQDRは国防活動があらゆる側面で歴史の波に洗われ、転換期にあることを特徴付けている」と声明を出し、苦しい台所事情を認めた。
15会計年度(14年10月~15年9月)の国防予算案(要求ベース)は4960億ドル(約50兆円)で前年度比約6%減となった。その上、今後10年間で約1兆ドルの削減が義務付けられている。
陸軍兵力は約52万人から数年後には44万~45万人と第2次大戦後、最小規模とする。
米国の財政難はアフガニスタンとイラクでの二つの戦争で多額の戦費を使ったためだ。国民の厭戦(えんせん)気分は強く、議会の国防費に対する目も厳しい。
オバマ政権は2年前、中東と朝鮮半島を想定した大規模紛争に同時に対処する「二正面作戦」への態勢維持を断念した。アフガンからも米軍は年内に完全撤退する。
武力行使に慎重な姿勢を示すオバマ政権がアジア重視を掲げた背景には、中国の軍拡路線がある。国防費は10年前の約4倍の規模に膨らみ、透明性も欠けている。
米国が警戒することは理解はできる。ただ軍事面で日本に対し、一方的に役割の拡大を求めるのならば、筋違いと言うべきだ。
米国との同盟関係を重視する安倍晋三政権は今年中に行う日米防衛協力指針(ガイドライン)の見直しに向け、集団的自衛権の行使容認を急いでいる。
現行の憲法解釈は集団的自衛権行使を禁じ、国民の合意もできている。米国の事情を理由に原則を踏み外すわけにはいかない。
米中は「新たな大国関係」を目指すなら、東アジアの安定構築に努めるべきである。その場合、関係国も交えた重層的な安保協議の枠組みも考えられよう。
日本も対米追従ではなく、東アジア全体の利益を考えるべきだ。
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