The US Military Defending Takeshima?! A Conference Set Ablaze

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 ■特派員リポート 奥寺淳(アメリカ総局員)

 ソウルで行われた記者会見で、目が真ん丸になる質問に出くわした。2月13日、ケリー国務長官が韓国を訪問したときのことだ。

 韓国紙記者は、身を乗り出してこう切り出した。「ヒラリー・クリントン前国務長官とヘーゲル国防長官は、尖閣諸島は(日米)安全保障条約の適用範囲内だといいました。それでは、独島(トクト、竹島の韓国名)は(米韓)条約の適用範囲内でしょうか」

 ケリー氏は、外遊続きのうえ、ワシントンと14時間の時差もあり疲れがにじんでいた。「三つも質問がありますね」。困ったような表情を浮かべながら、まずは尖閣諸島の問題に答えた。「クリントン前国務長官とヘーゲル国防長官の説明に同意する。これが米国の立場です」。その後は日韓関係をいかに改善するかについて語り、竹島に関する質問には答えなかった。その場にいた私も、うまくかわしたな、と思った。

 そして米国務省のサキ報道官が、あらかじめ決めていた最後の4人目の質問者、米国紙記者を指名しようとした。「最後の……」まで言葉が出たところで、韓国紙記者が割って入り、食い下がった。

 「もう1回、お聞きしたい。(米韓)防衛条約と独島についてですが、ケリー長官は米韓条約の適用範囲内だと考えていますか」

 100人以上の記者がずらりと並んだ韓国外交通商省の会見場は、しーんと静まりかえった。1秒、2秒、3秒……。重い空気が流れている。ようやく8秒後、みけんにしわを寄せたケリー氏が口を開いた。

 「どの島のことですか? 申し訳ないが、聞こえなかった」

 韓国紙記者は一瞬たじろいだように見えたが、それでもひるまなかった。「独島」と3度連呼し、「米韓の相互防衛条約において、独島をどうとらえていますか」とたたみかけた。

 すると、ケリー氏は「すでに答えたと思う。我々はそのように確認している」と短く答え、すぐにニューヨーク・タイムズ紙記者の質問に移った。

 ケリー氏の答えは不明瞭で、竹島のことを念頭に答えたのかどうかはよく分からなかった。会見に参加した記者の間でも、竹島と尖閣諸島を勘違いしたのではないかとの見方が多かった。

 実際に、米国務省のハーフ副報道官は同じ日の電話会見で、「リアンクール岩礁(日韓以外の第三国で使われることがある竹島の名称)のことか尖閣諸島のことか、質問がはっきりしなかったので、国務長官は(尖閣についての)これまでの立場を表明した」と釈明。ただ、「リアンクール岩礁についての政策にも変更はなく、米国は領有権に関する立場はとらない」とも付け加えた。

 ケリー氏が、本当に「独島」のことを思いつかなかったのかどうかはちょっと怪しい。でも、仮に「独島」のことだとピンと来ていたとしても、米国の立場としては、非常に困った質問であることには変わりなかった。この韓国紙記者は、竹島が第三国に攻め込まれたら、米国は韓国との条約に基づいて防衛するのか、その第三国に武力で対抗するのか、と聞いたに等しかった。

 これだけ日韓関係が険悪化している状態で、韓国人記者が想定する「第三国」が日本であるのは容易に想像できた。つまり、日本人が竹島に上陸しようとしたら、米国は日本を力ずくで追い出すかという質問であり、日本人記者はあっけにとられた。

 米国にとって、日本も韓国も同盟国。しかも、日本はアジア太平洋地区の安全保障の基礎という位置づけである。その日本に対して武力で対抗するのかと別の同盟国から聞かれ、ケリー氏はさぞかし驚いたに違いない。というより、そんな質問がごく普通に飛び出すほど、日韓関係は深刻なのかと頭を抱えたことだろう。

 米韓外相による記者会見なので、普通なら米韓の二国間関係や北朝鮮の核問題についてが話題になる。ケリー氏も韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相も、冒頭のスピーチでは日本の歴史問題については全く触れていなかった。それなのに、質問した記者4人のうち、2人は日本について。それに触発されたのか、尹外相も「朴政権は努力してきたが、遺憾なことに我々が見たのは日本の一部政治指導者による歴史修正主義的な言動だった」と声を上げた。

 竹島以外にも、この韓国人記者が、安倍首相の靖国参拝の評価についても聞くなど、会見は日本をめぐって炎上気味になった。記者から「自由に質問させたのが間違いだった」との声が漏れたほどだが、韓国は民主主義の国なのでそれは仕方がない。その結果、翌日の日韓のメディアは、日韓関係の険悪さが強調される報道ぶりにならざるを得なかった。

 一方、これとは対照的だったのが、その翌日に北京で開かれたケリー氏の会見だ。ケリー氏は、韓国の次に中国を訪問し、習近平(シー・チンピン)国家主席、李克強(リー・コーチアン)首相、王毅(ワン・イー)外相ら中国共産党の指導部と相次いで会談。その後、ケリー氏は北京市内のホテルで単独会見に臨んだ。

 中国では、外国首脳が中国の指導部と一緒に記者会見することはほとんどない。我々記者としては、米中の外相がそろって質問に答えてくれた方がありがたいし、写真も撮れていいのだが、自由な会見をいやがる中国共産党・政府の意向だと言われている。

 毎回そうなのだが、中国指導部が外国首脳を招いて会談したとき、その内容を知るには新華社通信か中国中央テレビが流すのを待たなければならない。そこで公表される内容は、党中央宣伝部の指導の下で流されるもので、党・政府の「公式見解」だ。

 一刻も早く会談内容を知りたくて中国外務省に問い合わせても、「新華社がもうすぐ流します。それを見てください」と言われるし、外務省がホームページで発表する内容もこれと同じ。「両国関係を発展させる」「ウインウインの関係をつくる」といった外交辞令が多く、マイナスイメージの内容はあまりない。今回のケリー氏との会談を伝える公式見解にも、日本に関する内容はなかった。

 中国側が会見しないので、米側は仕方なく、自分たちが泊まっているホテルで単独会見を開くことになる。ただ、自由そうに見える米側の会見だが、実は質問する記者は事前に決められている。会見場で記者が手をあげて競うのではなく、報道官が「AP通信の○○さん」といった風に個人名で指名するのだ。

 その日、質問したのは米メディアの2人。暗礁に乗り上げている北朝鮮の核問題などについて内容の濃いやりとりがあったが、日本については触れられなかった。

 実際のケリー氏と中国指導部との会談で、中国側が尖閣諸島をめぐる日本との対立や歴史問題について取り上げないはずはない。しかし、中国側はあえてそれを表に出すことはなかった。

 ケリー氏の会見でも話題にあがらないので、前日とは打って変わって、日中のメディアが日中関係の険悪さを強調することもない。これもまたほめられたものではないが、完全に、中国主導で「公表すべき内容」がコントロールされたのだった。

 話は少しそれたが、ケリー氏は今回の中韓訪問で、日韓、日中関係の深刻さをつくづく実感したことだろう。特に、米国が深刻にとらえているのが、日韓関係だ。米国のアジア政策は、同盟国である日本と韓国を軸にしている。なのに、この両国がいがみ合うことでその基盤が揺らぐことにいらだっている。北朝鮮の核問題やアジア太平洋地域での安全保障を考える上でも、日米韓の緊密な協力は欠かせないのだが、その足元がぐらついているため、日韓関係の悪化は米国の国益にも反すると考えている。

 そんな思いで日韓の仲を取り持とうとしていたさなかに、安倍首相が昨年12月に靖国神社に参拝したものだから、米国は「失望」という強いコメントを出さざるを得なかった。ワシントンで取材していると、これは、純粋に米国政府の気持ちを表していたと感じる。

 「オバマ大統領が(4月に)日本と韓国を訪れるまで待てない」。ケリー氏はソウルでの会見でこうも語り、日韓の双方に関係改善を急ぐよう求めた。3月下旬にオランダ・ハーグで開かれる核保安サミットで、日米韓の3カ国首脳会談を開こうという話が持ち上がっているのはそのためだ。

 韓国の朴槿恵(パク・クネ)政権は、日本が歴史問題で態度を変えないと応じられないという立場だと伝えられている。しかし、このまま日韓両国が歩み寄らず、4月にオバマ大統領が日韓訪問をした時にも、日韓が相手をけなしあうようなことにでもなったら、これほど非生産的なことはない。

 さらに気がかりなのは、オバマ氏が日本を訪問する予定の4月22日は、靖国神社の春の例大祭と重なっている。その直後には韓国も訪問する。昨年の春の例大祭は麻生太郎副総理が参拝し、超党派の国会議員168人が集団参拝する様子もテレビで伝えられ、中韓が猛反発した。今年の春も昨年のようなことが起きれば、オバマ氏の訪日の成果はかき消されてしまうかもしれない。米政府は、それを心配しているに違いない。

 北京やソウルに行くと、多くの日本人は中国人、そして韓国人とも普通に仲良く付き合っている。心の中にわだかまりはもちろんあるだろうが、それを相手に直接ぶつけてけんかするようなことはほとんどない。

 経済は、言うまでもなく深く依存しあっている。少なくとも、政治の世界よりずっと大人の対応をしている。政治家たちは、どうして私たち普通の人たちにできることができないのかと、つくづく不思議になる。

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