「大国関係」対「再均衡」 「新型の大国関係」という罠 論説委員・湯浅博
2014.3.30 03:23
オランダ・ハーグ近郊で行われた米中首脳会談で、2人は「新型の大国関係」を語り合ったのだろうか。オバマ米大統領夫人のミシェルさんが訪中で厚遇されたこともあり、会談は妙にベタベタした空気で始まったと、本紙記者が伝えてきた。おそらく夫人の事前招待は、この“政治コピー”を内外に印象づける演出なのだろう。
冒頭、中国の習近平国家主席が「先日あなたが手紙をくれ、新型大国関係の発展に尽くすと言ってくれたことを称賛する」と口火を切った。もっとも、中国側の発表には書簡や新型大国関係が出てきても、米国側からはかすった程度だった。
首脳会談後に記者会見したローズ副補佐官は、「新型の大国関係」にまったく触れていない。米国内には、大統領が中国のキャッチコピーに追随することに批判があり、政権に不利益なことは言及しないということなのかもしれない。
そこで、会談の冒頭を代表取材した米紙記者のメモを取り寄せてみると、大統領が「国家関係の新しいモデルを追求していく」と述べた、と報告されていた。オバマ大統領は書簡のことこそ触れていないが、「新型の国家関係」と微妙に言い方を換えて応じていたのである。
追われる既存大国が、追いすがる新興大国の使う概念を、定義もないまま受け入れるのはどうも解せない。中国がいう「新型の大国関係」に対応する概念をあげるなら、オバマ政権が掲げる米中の「リバランス」(再均衡)ではないのか。
仮面の下は核心的利益
「新型の大国関係」という政治コピーは、習近平氏が2012年2月に副主席として訪米した折に、彼の対米政策の中核にすえたものであった。それ以降、中国要人は繰り返しこれを強調して、米国に同意を求めてきた。昨年6月にカリフォルニア州で開催した米中首脳会談後の記者会見でも、習主席はわざわざ中国人記者に質問させて、両者が新型の大国関係で「重要な合意」があったことを明らかにしている。
新米国安全保障センター上席研究員のラトナー氏は中国側の意図について、「米国と肩を並べる大国の地位を求め、かつ中国の核心的利益を尊重する枠組みと考えている」とみる。核心的利益とは、獲得するためなら武力行使も辞さないという意味である。チベットや台湾のほか、近年では南シナ海のほぼ全域から東シナ海のわが尖閣諸島までが示唆されている。
ところが米国側は、この概念を「中国との競争をコントロールし、地政学的な問題で中国の協力を引き出す手段」としか考えていないという。日本をはじめとする同盟国からみれば、中国との米中共同統治(G2)をにおわす概念を米国が受け入れ、域内各国を脇役に追いやっているようにしか見えない。
ラトナー氏は言葉の裏に、「米国がG2関係を何よりも優先しているので、これからは米国に頼っても仕方がない」との底意があり、中国が暗にアジア各国を脅していると考える。中国は巧みな罠(わな)を仕掛けて米国を誘導し、彼らは手もなくそれに乗せられているとの構図だ。
力で現状変更は矛盾
ライス大統領補佐官(安全保障担当)は昨年11月、ジョージタウン大学の講演で「新型の大国関係を運用可能にすべき時である」と述べて、アジア諸国を不安にさせた。米国が枠組みに合意すれば、中国は「米国が核心的利益を尊重した」と曲解して、東シナ海や南シナ海で自己主張を強めてくるだろう。中国大使に就任したボーカス元上院議員が1月の上院外交委員会の証言で、メネンデス外交委員長から「新型の大国関係」を問われて、こう述べている。
「私にとって理解できるアプローチではない。この問題について大統領と特に話したことはないが、大統領も同様であると確信している」
そう期待したいものだ。続いてボーカス氏は、中国が一方的に設置した東シナ海の防空識別圏に関しても「認めず、追認もしない。この認識を中国に伝えることがさらなる潜在的行動を思いとどまらせると考える」と明言していた。
米国は誤解しがちな「新型の関係」の政治コピーを捨て、中国に対して「力による領土・領海の現状変更はこれと矛盾する」と明言すべきなのだ。理念が定義もないまま独り歩きすれば、誤解と不信から危険な方向に迷走しかねない。(ゆあさ ひろし)
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