【米のアジア重視】「再均衡」の安定に努力を
2014年04月29日08時13分
今月23日に東京入りした米オバマ大統領は韓国、マレーシアを経てフィリピンを訪問し29日、アジア歴訪の日程を終えて帰国する。
今回の外遊の目的は、オバマ政権が掲げる政治や軍事、経済分野にわたる「アジア重視政策」を再構築することにある。米国は2001年の中枢同時テロ後、国力を「テロとの戦い」に傾注。アジアへの対応で後手に回り、中国の急速な台頭を招いた。
その意味でアジア重視政策は「リバランス(バランス調整、再均衡)」と呼ばれる。安全保障面では日韓やオーストラリアなどとの同盟関係を強化し、経済的には環太平洋連携協定(TPP)を軸に、新たな国際秩序づくりを狙う。
しかし2期目に入ったオバマ政権はシリアの内戦やパレスチナ和平、ウクライナの混乱などに力を取られ、アジア重視政策は存在感が薄れていた。立て直しに向け大統領は強い意欲で臨んだはずだ。
TPP交渉で日米は、1日遅れの共同声明で交渉継続を発表した。またオバマ氏は、尖閣諸島が日米安全保障条約第5条の適用範囲だと述べ、米大統領として初めて尖閣の防衛義務を明確に表明した。
しかし米国にとってみれば、尖閣の問題は「リバランス政策」という大きな戦略的枠組みの一要素にすぎまい。それは後半の訪問国、マレーシアとフィリピンへの対応をみても分かる。両国とも南シナ海で、中国と領有権問題を抱える。
米大統領のマレーシア訪問は48年ぶりだ。同国は米国とは長く距離を置いてきたため、国有企業の維持などTPP交渉では難問を抱える。中国との関係も深く、南シナ海問題では法による解決を図るとの合意にとどまった。
米国とフィリピン両政府が署名した新軍事協定は、1992年にフィリピンから完全撤退した米軍が22年ぶりに回帰する内容だ。現在は訪問米軍が巡回しているフィリピン軍の全基地を、米軍が使用できる。米軍の地域での存在感は圧倒的に高まる。
同時に信頼の醸成も
新協定は実際に地域の軍事バランスの変更を意味するだけに、その影響は計り知れない。
中国は米国が日本に尖閣諸島の防衛義務を確約しただけで、激しく反発した。新協定の衝撃はその比ではないはずで、今後の出方に注目が集まる。
米国の狙いは、東シナ海や南シナ海で周辺国と対立する中国をけん制することにあるだろう。だがフィリピンへの米軍回帰は、東アジアの緊張をさらに高めかねない。
オバマ大統領は新協定について、中国には南シナ海問題などの対話解決の必要性を明確に伝えているとし、「中国の封じ込めが目的ではない」と強調した。「中国の平和的台頭を歓迎する」と、日本で述べたのと同じ言葉でメッセージを送りもした。
それならなおのこと、日本に求めた「対立をエスカレートさせるだけでない、信頼醸成の措置」に米国自ら努力する責任がある。同盟強化の一方で、地域の安定化に汗をかくべきだ。
日本も含めた同盟国も米国をあてにするだけでは、アジアの安定化に寄与できない。アジアに持続可能な平和と繁栄をもたらしてこその「リバランス」であろう。
大統領の歴訪が終わった今後の取り組みこそが重要だ。
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