ロ・欧米制裁合戦 ウクライナ安定遠のくだけ
2014年8月10日
ロシアがウクライナ問題をめぐる米国や欧州連合(EU)の対ロ制裁に対し、農水産品の輸入禁止に踏み切った。制裁の応酬は対立の深刻化を招き、ウクライナの安定が遠のくだけである。
報復は米国やEUなどの魚肉類や野菜、果物などの輸入を1年間禁止するという厳しい内容だ。ウクライナ危機で欧米などが発動した経済制裁に対し、ロシアが対抗策と明示した措置を取るのは初めてとなる。だが安価な欧州産の野菜や果物などの輸入が禁止されることで、ロシア国内で食料品価格の高騰などインフレを招く懸念も大きい。
欧米などはこれまで、ウクライナ南部クリミアの編入や同国東部で独立を宣言し、政権側部隊と交戦している親ロシア派への軍事支援を理由に、プーチン大統領の側近らに対する渡航禁止などの制裁を発動した。7月には、親ロ派の関与が疑われるマレーシア航空機撃墜後もロシアが支援をやめていないとして、制裁をロシア政府系銀行にも拡大し、武器や海底油田開発などの技術提供も禁止した。
ロシアでは通貨ルーブルの下落など経済に影響が出ている。農水産物輸入禁止の影響が長引けば、経済が脆弱(ぜいじゃく)化し、「自国民に制裁を科したことになる」(コーエン米財務次官)ことを自覚すべきだ。
ロシア側は報復制裁としてロシア上空を通過し、欧州から日本などアジアに向かう欧米航空会社の便の飛行禁止なども検討している。西側航空会社がソ連上空を通過できなかった冷戦時代を想起させる危険な動きだ。ロシア側は対立をあおるのではなく、撃墜事件の真相究明に協力すべきである。
一方、ロシアの報復措置は欧州経済にも影響し、経済制裁の応酬は世界経済の大きな懸念材料ともなろう。もとより欧米の制裁はロシアを排除するためではなく、ウクライナの安定や撃墜事件の解明へロシアの協力を促すことが目的のはずだ。これ以上の制裁の応酬をやめ、国際社会は一致して対話による緊張緩和の道を模索すべきだ。
ロシアは、日本が対ロ制裁に一部同調していることに反発しているが、食料品の輸入禁止には日本を含めていない。対日関係の極度の悪化は避けた形だ。一方の日本側は欧米との協調の間で、対ロ関係で難しいかじ取りを迫られている。独自対話を継続し、ロシア側の柔軟姿勢を促してもらいたい。
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