平和共存の道を探らねば 戦後70年 日米同盟と中国
戦後日本の外交・安全保障政策が、重大な転機を迎えている。
安倍晋三首相は、新たな安保法制で日米同盟を強化し、中国と対峙(たいじ)する道を選ぼうとしている。
中国の脅威をことさらに強調し、まるで「仮想敵国」と位置づけるかのような姿勢だ。
だが、経済を含め各国の思惑が交錯する現代の国際社会の中で、首相が描く単純な図式が通用するだろうか。
中国と隣り合う日本にとって、緊張をいたずらに高めることが最善の道であるはずがない。
戦後70年の節目に、日本はその立ち位置を見直し、平和主義に基づく独自の外交を確立すべきだ。
■相互依存強める米中
首相は戦後70年談話を発表した記者会見で、中国と「友好関係を発展させたい」と述べた。だが安全保障関連法案の審議では、中国の海洋進出を非難し続けている。
日本が中国の脅威から身を守るには米国との同盟強化しかない。そのためには新たな安保法制の整備が不可欠―という論理だ。
しかし「日米」対「中国」という硬直した見方でいいのか。
外務省は毎年、米調査機関に依頼し、米国民がどの国を「アジアにおける最も重要なパートナー」とみているか世論調査している。
有識者対象の調査では2010年から13年まで、中国を「最も重要」とする回答が首位を占めた。
その背景には、経済面での米中の強固な結びつきがある。
米中間の貿易額は13年に5千億ドルを突破した。米国にとって中国は現在、カナダに次いで第2の貿易相手国だ。輸入額、輸出額とも日本を大きく上回っている。
米国の本音は、経済面では中国と良好な関係を維持しつつ、軍事面での台頭を抑え込むことにあるだろう。
安倍政権は、そうした中国抑止の役割を担おうとしている。
しかし中国は日本にとっても最大の貿易相手国だ。関係がこじれることになれば結果は明らかだ。
首相の示す方向が、日本の国益に資するとは到底思えない。
政府は、米中関係と日米同盟の実相を見つめ直さねばならない。
■外交で緊張の緩和を
では日本は、巨大化する中国とどう向き合えばよいのか。
中国は、日本が12年に尖閣諸島を国有化して以降、日本の領海への公船立ち入りを恒常化させた。
東シナ海に防空識別圏を設定し、日中合意を無視してガス田開発を進めるなど強引さも目立つ。
中国の国防費は、米国に次いで世界第2位の約26兆円に達した。日本の防衛費の約5倍に当たる。
だからといって中国の軍事的な動きに軍事的な行動で反応すれば地域の不安定さは増すばかりだ。
日本がとるべき道は、中国に対して警戒感を共有する各国と歩調をそろえ、外交的な手段で緊張の緩和を図ることだ。
日本と中国は永遠に隣国だ。脅威をあおるのではなく、双方が自制し、共存の道を探るべきだ。
■関係を見直す契機に
安倍政権は、中国脅威論をてこに、違憲の疑いの強い安保法案の成立を目指している。
現行憲法が掲げる平和主義は、戦後日本の安保政策の基礎となってきた。
ところがその大原則を揺るがす今回の法案は、米国の意向をなぞったものにすぎない。
集団的自衛権の行使容認は、米国の元国務副長官らが12年に公表した「第3次アーミテージ・リポート」で日本に強く実現を求め、首相がこだわるホルムズ海峡の掃海にも具体的に言及していた。
根底にあるのは、イラク、アフガニスタンで拡大した米国の戦費負担を軽減するため、日本に「応分の負担」を求める考え方だ。
だが自衛隊はこれまでも、イラクで多国籍軍の人員を輸送するなど、米国の軍事戦略の一端を担ってきた。
戦後日本が選び取った平和主義という財産をこれ以上、米国の都合で傷つけることはできない。
終戦後、冷戦が終結するまで、米国が日本に求めてきたのは、旧ソ連に対するいわば「防波堤」としての役割だった。
そしていま日本は、中国に対する米国の戦略に組み込まれようとしている。
中国、ロシアという核保有国に囲まれ、日本が米国の「核の傘」の下にいる現実は否定できない。
それでも日本は、米国追従ではない外交方針を見いだすべきだ。
国民の多くは、今回の安保法案に明確に反対している。審議を通じて撤回、廃案に導き、米国、中国との関係を根本から見直す契機としなければならない。
そうした議論を尽くして初めて、日本は自立した外交を取り戻すことができるだろう。
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