トランプ米大統領が就任1年を迎えた。威圧的な政治手法を改める兆しはなく、政権の安定は望むべくもない。場当たり的な政策決定は米国民を右往左往させ、国際社会とのあつれきは米国の国際的な地位の低下を加速させた。政権2年目も、さらなる混迷を覚悟せざるを得ない。
トランプ氏の暴言虚言は選挙に勝つための方便であり、政権に就けば現実志向になる。1年前によく耳にした、この手の楽観論は全く当て外れだった。
法人税率の大幅な引き下げ、行き過ぎた規制の緩和など評価できる成果もあるが、もたらしたマイナスはそれ以上だ。
支持基盤である白人貧困層の歓心を買おうと繰り返す人種差別的な発言は、歴代政権が腐心してきた多民族融和・国民統合の努力を台なしにした。トランプ政権が終わっても、その後遺症は長く続くだろう。
さらに重大なのは、トランプ氏が国際秩序を揺るがしたことだ。どの国にも国益はある。だが、それを言い立てれば対立が激化し、戦争の引き金を引きかねない。話し合い、譲り合いで紛争の芽を摘もうというのが戦後世界の基本ルールのはずだ。
環太平洋経済連携協定(TPP)や地球温暖化に関するパリ協定からの米国の離脱がもたらしたのは、経済的な損失だけではない。世界を弱肉強食の時代に逆戻りさせ、中国やロシアが膨張志向を正当化する根拠を与えた。
米国は軍事力だけで世界をリードしてきたのではない。人権の尊重、民主主義、市場経済といった普遍的な価値こそが米国の支配力の源泉だった。トランプ氏はそれらを手放してしまった。
ここに来て、ホワイトハウス内の対立は深まっているようだ。トランプ氏と絶縁したバノン元首席戦略官の今後の言動によってはロシアゲート問題が急展開し、トランプ氏が窮地に追い込まれる可能性もある。
米国民の目先をそらそうと、トランプ氏は米メディア批判に一段と力を入れている。それでも済まずに、ビッグ・サプライズに走るかもしれない。
危惧されるのは北朝鮮への対応だ。経済制裁などで圧力をかけるのは核・ミサイル開発を封じ込めるためだ。疑惑隠しの思惑から無謀な戦争に踏み出すことだけはあってはならない。
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