(社説)米国と北朝鮮 非核貫く堅実な交渉を
2021年5月7日 5時00分
北朝鮮の核問題が表面化したのは、1990年代初めのことだ。それから約30年、米国は様々な交渉を主導してきたが、開発は止められていない。
過去の施策が失敗した原因は何だったのか。米国を筆頭に、日韓中ロの各国が冷静に考察し、朝鮮半島の非核化に向けた協調体制を築くべきだ。
バイデン米政権が、新たな北朝鮮政策をまとめたことを明らかにした。詳細は未公表だが、「調整された現実的アプローチ」だといい、段階的な行程を示唆している。
トランプ政権のような首脳間の「一括取引」や、オバマ政権のような「放置」ではない。北朝鮮が前向きな措置をとるごとに、制裁緩和などの対価を与える――そんな構想のようだ。
即時核放棄が望ましいのは言うまでもないが、冷戦構造が残る体制下で一気に解決をめざすのは現実的ではない。
肝要なのは、「完全な非核化」(米高官)という目標を貫き、行程を着実に前進させ、その検証を踏んでいく周到な交渉を積み上げることだろう。
ただ、「行動対行動」などと表現された段階的な合意は、過去にも試みられた。05年の6者協議の共同声明や、90年代の米朝枠組み合意などである。
それらの履行が持続できなかった理由は、北朝鮮が約束を果たさなかったことが大きい。同時に、米国も関与が不十分だったり、政権交代で姿勢を変えたりして、北朝鮮に口実を与えたことも否めない。
北朝鮮にこれ以上、大量破壊兵器の開発を続けさせる時間的余裕はない。バイデン政権は、朝鮮半島問題に対して高い優先順位を保ち、一貫性のある関与政策を心がけてもらいたい。
この新政策づくりは、日韓両政府の意見も聴き、採り入れたとされる。先日は日米韓の会合に加え、日韓の外相会談も久しぶりに実現した。これを機に、冷え切った日韓関係を修復する必要がある。
北朝鮮の後ろ盾である中国とロシアも真剣に考える時だ。北朝鮮の暴走が招く地域の不安定化は、各国すべてへの脅威だ。中ロは、米国との駆け引きに北朝鮮を利用するようなことは、厳に慎むべきである。
北朝鮮が、米国の新政策を警戒しつつも強い関心を注いでいるのは明白だ。潜水艦によるミサイル発射準備などで牽制(けんせい)しているものの、米批判のトーンを抑えて出方を探っている。
段階的な解決を描く米国の提案は、北朝鮮としても抵抗感が少ないだろう。かねて米国に求めてきた敵対関係の停止や安全の保証を実現するには、核の放棄しかないことを悟るべきだ。
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