アジアの安全保障 衝突避ける対話を米中で
ロシアによるウクライナ侵攻で国際秩序が揺らぐ中、米中対立の最前線となっているアジアの緊張を高めてはならない。米中両国に課せられた責任は重い。
アジアや欧米の国防相らが集うアジア安全保障会議がシンガポールで開かれた。
地域の安全保障環境は厳しさを増している。最近も中国が多数の戦闘機を台湾周辺に派遣し、米国は台湾への新たな武器供与を決めるなど、軍事的な動きを活発化させている。
オンラインで会議に出席したウクライナのゼレンスキー大統領は「ウクライナの事例は世界で起こり得る」と警鐘を鳴らした。
こうした危機感を米中も共有しているのだろう。
米国のオースティン国防長官と中国の魏鳳和(ぎほうわ)国防相が会議に合わせて初めて対面で会談し、衝突を避けるために意思疎通を続ける重要性で一致した。
緊張緩和に資する一歩として歓迎したい。
ただ、覇権を競う米中間の不信は根深い。一度の対話だけで解消できるものではない。
今回の会議でも双方が台湾問題を巡って原則論に終始した。
オースティン氏は「中国の行動が地域の安定を脅かしている」と批判し、魏氏はバイデン米政権の対中政策が「衝突や対立をあおる戦略」であると反論した。互いに相手こそが地域を不安定化させていると見なしている。
東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々は、米国と中国のどちらにつくかの二者択一を迫られるような事態を懸念している。
アジアの政治体制は多様であり、「米欧対中露」のような構図は成り立ちにくい。地域の安定を目指すには、こうした実情への配慮が不可欠だ。
米国が同盟や友好関係を中国排除の道具に利用しようとすれば、多くのアジア諸国はついていけないだろう。中国も力を頼みに国際ルールに背を向けるようでは、周辺国の不信を買うだけだ。
大国が我が物顔で振る舞う弱肉強食の論理に走らず、各国の主権を尊重して共存を図る。米中がそうした道を進まなければ平和は保たれない。衝突を避けるための対話を粘り強く続ける必要がある。
Leave a Reply
You must be logged in to post a comment.