ツイッターを買収 「マスク流」で質保てるか
1日2億人超が利用するネット交流サービス(SNS)を、どこに導こうとしているのだろうか。
米起業家イーロン・マスク氏が短文投稿サイトのツイッターを買収した。懸念されるのは、有害な投稿の管理が甘くなることだ。
SNSを巡っては、偏見や暴力をあおる投稿が社会の分断を深めたとの批判がある。このため事業者は、人員を増やして投稿管理などの対策を強化してきた。
昨年1月の米連邦議会襲撃を受け、トランプ前大統領のアカウントが凍結されたのはその一例だ。自由な運営を重視するマスク氏はこうした規制を批判していた。
買収後は投稿管理に関する評議会を新設し、運用を見直す意向を示している。収益改善に向けて大規模な人員削減に踏み切るとの報道もある。
投稿管理部門に大なたが振るわれれば、偽ニュースや中傷をなくしてサービスを改善しようとする取り組みが後退する。
SNSビジネスは曲がり角にある。プライバシー保護の強化で、利用者情報によって広告収入を得る手法は見直しを迫られている。主要国では、政府が投稿に関する規制を強化する動きもある。
経営者には、収益力と利便性、社会に与えるリスクや政府との距離感を多元的に考えるバランス感覚と思慮深さが欠かせない。
マスク氏は強い指導力で電気自動車や宇宙ビジネスの市場を開拓してきた。一方で、気まぐれな情報発信によって従業員や投資家を混乱させたこともある。今回の買収でも、計画を一時撤回するなど迷走した。
440億ドル(約6兆4000億円)もの資金を投じる以上、サービスの革新を進める考えはあるのだろう。だが、「マスク流」の独善的な経営でツイッターの言論空間が規律を失えば、民主社会の基盤を揺るがしかねない。
マスク氏は上場を廃止したうえで旧経営陣を一掃し、経営改革を進める方針だ。公共インフラとしての質を保つには、トップの暴走に歯止めをかけることのできる企業統治が欠かせない。
何より求められるのは、マスク氏自身がビジョンや理念を丁寧に発信することだ。短いつぶやきだけでは説明責任を果たせない。
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