月着陸船打ち上げ 日本の再生につなげたい
宇宙ベンチャーのアイスペース(東京)が開発した月着陸船が11日、米スペースX社のロケットで打ち上げられた。来年4月末ごろに日本初、民間では世界でも初となる月面着陸を目指す。
米国ではすでに、スペースX社をはじめとする民間企業が、宇宙開発の基幹分野を担うまでになっている。日本は衛星打ち上げなどの宇宙ビジネスの分野で欧米に後れをとってきた。民間による月探査で日本が世界の最前線に参入する意義は大きい。
月は、人類が宇宙に活動領域を広げる拠点と位置付けられる。
米国が主導する国際協力による月探査の「アルテミス計画」が始動し、対抗する中国も月探査を加速させている。国家間の協調と競争に伴い、民間企業のビジネス戦線も本格化する。
そうした中でアイスペースは、月着陸を足がかりに輸送システムなどで「アルテミス計画」に貢献し、宇宙ビジネスの確立、拡大を目指している。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)を主軸とする宇宙開発に、民間企業による新たな柱ができることで、日本の宇宙開発の裾野が広がることも期待される。JAXAには研究論文の不正や超小型探査機「オモテナシ」の失敗を厳しく受け止め、失墜した信頼を回復することを強く求める。
民間企業による月面着陸という未踏の挑戦を実現させるため、アイスペースと三井住友海上火災保険は共同で、世界初という「月保険」を開発した。月面探査に伴うリスク管理と補償を担う契約で、「民間の挑戦を民間が支える」仕組みである。これは、深刻な低落傾向にある日本の科学技術の再生にも生かせるのではないか。
新型コロナウイルスのワクチン開発で、日本は世界のトップグループに追いつけなかった。ワクチン開発や創薬に伴うリスクを製薬会社が背負いきれないことが、大きな要因である。
科学技術の先端分野には同様のリスクがある。安全保障の観点から、国費(税金)を投じることも必要だが、幅広い分野を支えるには限界もある。
月保険のような仕組みをさまざまな分野で構築すれば、民間企業の挑戦が活性化するはずだ。民間による月面着陸を起点とする宇宙開発の新時代を、日本の再生のモデルとして注目したい。
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