日鉄の米社買収 経済安保の強化に資する
日本製鉄が米鉄鋼大手USスチールを買収する。国内の鋼材需要が減少していることに対応し、拡大を続ける米国市場の需要を取り込む狙いだ。
買収のため、日鉄は2兆円という巨費を投じる。主に銀行からの借入金で賄い、2024年にUSスチールの全株を取得し、完全子会社化する。
鉄は自動車をはじめ、多くの工業製品に欠かせない基礎素材だ。日米大手が手を組み、技術開発や原料・商品のサプライチェーン(供給網)の強化につなげられれば、経済安全保障にも資する。半導体などで進む日米連携の動きが素材分野にも広がったことは歓迎したい。
気になるのは、全米鉄鋼労働組合(USW)の反対表明に呼応して、バイデン政権が「精査に値する」と買収の認可に慎重姿勢を示したことだ。
USスチールは米国を象徴する老舗企業だ。従業員らの反発や来年の大統領選を意識した動きであろうが、日本は同盟国である。日鉄は米国の国家安全保障にとっても不可欠な国内鉄鋼生産の強化につながることを丁寧に説明する必要がある。
鉄鋼業界では中国メーカーが世界の粗鋼生産量の過半を占める。中国メーカーの過剰生産によって国際市況が悪化し、日鉄など国内鉄鋼メーカーの収益にも影響を及ぼしてきた。
中国メーカーに対抗する国際競争力を得るには規模拡大は不可欠だ。日鉄はこれまでアジアでの事業拡大に取り組んできたが、先進国の最大市場とされる米国でUSスチールを傘下に加える意味は大きい。
世界鉄鋼協会によると、22年の日鉄の粗鋼生産量は世界4位。同27位のUSスチールの買収によって3位に浮上する。
鉄鋼業界が対応を迫られている脱炭素を進めるうえでも効果が期待できる。
USスチールは鉄スクラップを電気の熱で溶かして鉄をつくる電炉技術に強みを持つ。石炭を使う高炉に比べて二酸化炭素を抑えられる。
中長期的には、石炭の代わりに水素を使う製造方法の確立も求められている。多額の研究開発費を捻出するには収益力の強化が欠かせない。USスチールの買収は理にかなう。
日米連携を深めることで脱炭素技術を磨き、世界をリードしてほしい。
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