きのうは沖縄返還記念日でした。本土復帰から三十八年。今も在日米軍基地の約75%が集中する現実は日米安保体制の在り方を厳しく問い掛けてきます。
政権発足当初は70%台と高い内閣支持率を誇った民主党政権ですが、八カ月がたって支持率は20%台に落ち込み、青息吐息です。
その大きな要因の一つが、米軍普天間飛行場の返還問題であることは疑いの余地がありません。
当初は「沖縄県民の負担軽減」「最低でも(代替施設の)県外移設」と勢いづいていた鳩山由紀夫首相も、今では「県外は現実的には難しい」と完全に白旗です。
◆公約守れぬ言い訳
首相は国外・県外移設が難しい理由に「沖縄に存在する米軍がすべて連携し、抑止力が維持できるという思いに至った」ことを挙げましたが、説得力はありません。
むしろ、公約を守れなかった言い訳に、抑止力という概念を持ち出したというべきでしょう。
自ら設定した「五月末決着」という期限も先送りされそうです。まずは自らの不手際を深く反省し、沖縄県民をはじめとする国民に謝罪すべきです。
沖縄には米海兵隊で唯一の海外常駐部隊である第三海兵遠征軍が駐留し、普天間飛行場には第一海兵航空団第三六海兵航空群のヘリコプターや空中給油機などが配備されています。首相は、この航空群を名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブ沿岸部に移さなければ、敵に攻撃を思いとどまらせる「抑止力」が損なわれると言っているのですが、果たしてそうでしょうか。
沖縄に駐留する海兵隊はイラクやアフガニスタンに派遣され、太平洋地域で行われる訓練・演習にも頻繁に参加しています。
沖縄を空けることが多くても、この間、日本を含むいわゆる「極東」地域で抑止力が著しく低下したという話は聞きません。
◆沖縄県でなくても
この地域の安定は、在韓・在日米軍や米海軍第七艦隊、韓国軍や自衛隊の総体としての抑止力によるものと考えるのが自然です。
朝鮮半島有事での海兵隊の役割は米国市民らの救出、北朝鮮の核兵器確保が主とされますが、それを機動力と呼んでも、抑止力とは言いません。
軍事力を強化する中国軍と米軍とが万一、対峙(たいじ)した場合、航空優勢や制海権の奪い合いになるでしょうから、海兵隊よりも米海空軍の役割が大きいといえます。
尖閣諸島防衛も一義的には自衛隊の役割で、海兵隊が介入するか否かは確定的ではありません。
そもそも、有事には米本土から増援部隊が投入されるので、海兵隊が沖縄にいなければ抑止力にならないとは考えにくいのです。
では、なぜ米政府に国外・県外移転が言いだせないのでしょう。
それは、米政府にものが言えない外交が政権交代を経ても続いているからではないでしょうか。
米軍駐留やその経費負担、不平等が指摘される日米地位協定などは占領期の残滓(ざんし)ともいえます。
首相は「緊密で対等な日米同盟関係」を掲げるなら、県内移設の政治的困難さを明確に伝えるべきです。仕切り直して、米軍基地の適正配置を米側と緊密に協議しながら考え直すべきでしょう。
この問題では、言を左右にする首相の資質欠如や日米同盟の危機が喧伝(けんでん)されますが、日本国民には悪いことばかりではありません。
意図的かどうかは別にして、米軍の抑止力という問題や「沖縄の思い」に、日本全体で思いを至らせるきっかけになったからです。
沖縄では今、重い基地負担を本土による「差別」とする声が公然と出ています。
実際、沖縄の海兵隊は以前、岐阜、山梨両県にありましたが、砂川闘争など日本本土での反基地闘争の激化を背景に一九五六年、当時米軍政下に置かれていた沖縄に移駐した経緯があります。
もし、在日米軍が日本を含む極東の安定に不可欠というのなら、その基地負担は日本国民ができる限り等しく負うべきです。沖縄に基地を押しつけての日米安保体制維持など、空論にすぎません。
鳩山内閣は、沖縄の基地負担軽減に向けて、全国の都道府県知事に米軍訓練の受け入れを求める方針で、大阪府の橋下徹知事は前向きな姿勢を示しています。
◆負担の分かち合い
もちろん、地元住民の大方の受け入れ同意が前提ですが、安保体制の維持が重要であるなら、沖縄の負担を全国で分かち合うことも一つの手です。それも難しいというのなら、鳩山首相はいよいよ国外移設を求めるほかありません。
抑止力論は、沖縄に米軍基地を固定する口実に使われています。その呪縛(じゅばく)から自らを解き放つことが、沖縄の過重な基地負担を軽減することにつながるのです。
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