社説:米「盗聴」改革 検証の仕組みも必要だ
毎日新聞 2014年01月21日 02時30分
一歩前進ではあるのだろう。各国から盗聴批判を浴びていた米オバマ政権は「密接な関係にある同盟国や友好国」の首脳や政府の通信を監視対象としない方針を打ち出した。盗聴疑惑の「本丸」といえる米国家安全保障局(NSA)が収集した電話通話記録(メタデータ)の管理を政府外機関に委託することにしたのも、市民のプライバシー尊重という点で一定の評価はできよう。
米国の通信傍受については昨年以来、米中央情報局(CIA)の元職員、スノーデン容疑者の暴露により、メルケル独首相を含めて少なくとも35人の外国首脳の電話などがNSAによって盗聴されていたことが明るみに出た。これに同首相らが激怒したこともあり、オバマ政権は通信傍受に一定のガイドラインを設ける必要に迫られていた。
今回の改革でオバマ大統領が強調したのは透明性と市民の権利だった。大統領は言う。米国の情報収集活動は太平洋戦争で旧日本軍の作戦計画を見破り、特にNSAは東西冷戦でも活躍したが、2001年の同時多発テロ以降は、時に米国の価値観に合わない情報収集も余儀なくされたと。だから、この辺で時代の変化と技術革新に合わせて新たな情報収集の基準を設けようというのだ。
基本的には賛成できる。市民の個人情報を無差別的にのぞくような国が民主的であるはずはなく、のぞかれる市民も迷惑だ。テロ防止や安全保障に名を借りたプライバシーの侵害、あるいは安全保障とは無縁の私企業情報の収集などは慎むと大統領自身が約束したことは意義深い。
だが、すぐに疑問が湧くのも事実である。今まで米国は知らぬ間に外国首脳などの通信を傍受していた。では、当の首脳たちは盗聴されていないことを、どうやって確認すればいいのか。欧州諸国が求めているように、紳士協定で片付く問題ではなく、通信傍受について具体的な検証手段が必要になるはずだ。
もっと大きな問題もある。盗聴活動はロシアや中国などもしていよう。米国のみを責めても国家による盗聴問題は解決しないし、日本を含む同盟国が米国の情報収集にブレーキをかければ、そのツケは自分たちに回ってくるというジレンマもある。
つまり、米国以外による情報収集にも対処すべきなのだ。国際的な情報戦は今や、スパイによる人的情報収集から、偵察衛星などによる監視やサイバー空間での情報争奪戦が主流になり、まさに「仁義なき戦い」の趣だ。こうした戦いにルールを導入することも大事だが、国家であれ個人であれ、情報を盗まれないためのシステムの確立が急がれる時代になっている。
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