America’s Transfer of Power Is Time to Escape Turmoil and Work Together

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米国の大統領選から1カ月が過ぎた。トランプ大統領はいまだに敗北を認めていないが、各地で選挙結果に異議を申し立てた訴訟は次々に敗れている。

 選挙の調査を命じていた司法長官も、大きな不正は見つかっていないと明らかにした。ここは民主主義のルールに基づき、事態の収拾をはかる時である。

 トランプ氏はこれ以上の遅滞なく敗北宣言を出し、バイデン次期大統領への政権移行に全面的に協力すべきだ。

 この1カ月で米国のコロナ感染者の累計は約1・5倍に跳ね上がった。この間、政権は新たな方策を示さず、連邦議会も包括対策に合意できていない。

 無益な政争を続ける余裕はない。トランプ氏の敗北宣言を待つことなく、バイデン氏が閣僚人事など次期政権の骨格づくりに着手したのは、当然の責任遂行というべきだ。

 国務長官にブリンケン氏、財務長官にイエレン氏ら、実務経験に富んだ「プロ」が起用されている。コロナ禍に取り組むため、無難だが手堅い滑り出しをめざす意図がうかがえる。

 与党となる民主党内では、急進左派の間で、穏健派偏重だとの指摘が出ている。格差是正など諸問題をめぐり党内論議を深めるのは結構だが、来年1月20日の政権交代までには挙党態勢を固める必要がある。

 議会上院の構成は未定だが、与野党間の緊張は続く。対決型の政治では、課題の解決はできまい。議会経験が豊かで、対話による調整を得意とするバイデン氏の手腕に期待したい。

 次期政権には、さまざまな国民の分断の溝を少しでも埋める努力が求められている。人種差別問題で噴出したような、社会的公正の実現を求める人々の意思への目配りは欠かせない。

 イエレン氏は女性初の財務長官になるほか、ホワイトハウス広報スタッフの主軸に全員女性を起用するという。ハリス次期副大統領の側近にも、黒人女性が登用される見通しだ。

 多様性を政治に反映させる営みからこそ、分断を超える地平も開ける。共和党も今回、女性下院議員が倍増して過去最高になった。女性や少数派の積極登用は、党派を超えた必然の要請である。

 外交政策では、気候変動のパリ協定やイラン核合意など、国際枠組みへの復帰が初手になりそうだ。気候問題担当の大統領特使として、重鎮のケリー元国務長官を充てるという。

 トランプ政権下で深く傷ついた米国の信頼を修復するのは、骨の折れる仕事となろう。だが、多国間主義への米国の回帰は、国際社会の切なる願いだ。しっかりと応えてもらいたい。

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