米中対立と日本 「抑止力」だけでよいのか
米国と中国の対立が激しさを増し、東アジアの緊張も高まっている。日本はいかなる針路を取るべきか。衆院選は各党の基本姿勢を見極める好機である。
外交・安全保障の公約で各党におおむね共通するのは中国への警戒感である。この10年で中国の国防予算は約2・3倍に膨らみ、看過できないからだ。
中国は最近、台湾に対し「統一」へ向けた軍事的威嚇を強めており、関係国に台湾有事の懸念が生じている。さらに北朝鮮が9月以降、多様な新型ミサイルの発射を続け、東アジアの不安定さは確実に増してきた。
このため、日本の防衛力増強を求める声が国内外にある。
防衛費は国内総生産(GDP)比1%程度に抑えられてきたが、自民党は公約で「2%以上も念頭に増額を目指す」とした。北大西洋条約機構(NATO)加盟国の国防予算で目標とする比率も念頭に置いたという。
ただこの数字は必要な装備の細かな積算もなく、防衛費増額ありきで設定されたと言え、国民の不安に便乗した強引さが際立つ。国の財政赤字は深刻で、社会保障など他分野とのバランスもある。連立与党の公明党が「国民の理解を得られない」と批判するのも当然だろう。
国是としてきた「専守防衛」との整合性が問われる「敵基地攻撃能力」保有の是非も争点である。自民党の公約は「相手領域内で弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」と踏み込んだ。
北朝鮮や中国のミサイル技術の向上と自衛隊装備の現況を考えると、実現はかなり困難で、膨大なコストがかかる可能性もある。公明党や野党は「現実的でない」などと否定的だ。
安倍晋三、菅義偉両政権は日米同盟深化を優先させ、米国から巨額の防衛装備品を購入し、抑止力強化に傾斜してきた。今後、米国がさらなる負担増を求めることも想定される。
防衛費を効率的に使い、必要な抑止力の維持を目指すにしても、かえって周辺国の軍拡競争を招くような事態は避けたい。
日米同盟を基軸にして「専守防衛に徹する」と主張する立憲民主党など野党も、中国の「脅威」に対する国民の不安をすくい取り、より具体的な政策を語るべきだろう。
抑止力論議と同時に、緊張緩和を促す外交について論じてほしい。選挙戦の議論が熟したとは言い難い。特に近隣国とは対話を重ね、信頼を醸成する外交こそ求められる。隣国同士の首脳対話も進まないままだ。
この停滞をいかに抜け出すのか。政治の前向きなメッセージを待つ国民は少なくない。
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