アメリカ「対中戦略上の要衝」グアムとオーストラリアにこれから起こる非常事態
対中シフト」が鮮明に
米国防総省(ペンタゴン)は11月29日、世界規模の米軍態勢見直し「グローバル・ポスチャー・レビュー」(GPR)の概要を発表した。
「中国が最も重要な課題であることは明確だ」とマーラ・カーリン国防次官補(戦略・企画担当)が同日の記者会見で述べたように、バイデン米政権はGPRで示したインド太平洋地域における米軍のプレゼンス(存在)を高める意向を明らかにしたのである。
キャッチフレーズ的に言えば、海外駐留米軍の中心をこれまでの中東地域から中国を視野に入れてアジア周辺へとシフトさせる流れを加速する、すなわち「対中シフト」を鮮明にするというものだ。
ジョー・バイデン大統領は就任間もない2月、米軍の人員や戦力の配置見直しなどGPRの立案をロイド・オースティン国防長官に指示している。と同時に、2022年の早い時期に「国家防衛戦略(NDS)」そのものを改定・発表すると言明していた。
現状ではGPRの詳細は未公表であるが、ペンタゴンの国防情報局(DIA)を中心に結成された対策チームが策定した概要は次のようなものである。
「対中戦略上の要衝」
具体的には、カーリン氏が会見で言及した「対中戦略上の要衝」である米インド太平洋軍司令部(ハワイ)傘下のグアム・アンダーセン空軍基地、そして米空軍のF- 22戦闘機、F- 35 最新鋭ステルス戦闘機やB- 2ステルス戦略爆撃機をローテーション(巡回)配備するオーストラリア北部ダーウィン近くのティンダル豪空軍基地などの整備・拡充である。
グアムは中国と向き合う米国の最前線に位置し、オーストラリアはインド太平洋地域に位置する。10月初旬にはバイデン政権が米英豪の安全保障の協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」を通じてオーストラリアに原子力潜水艦の技術提供と原潜配備を公表した。
こうした米軍のグアムやオーストラリア基地強化が今回のGPRの概要発表で明らかになり、さらに韓国に攻撃ヘリコプター部隊の常駐が盛り込まれるなど太平洋の島国での軍事施設建設や部隊増強なども言及されたが、一方で在日米軍の配備や戦力について現時点で大きな変更はないと、先のカーリン氏は語ったというのである。
俄かに信じ難い。まさに米中対立の深刻さが日を追うごとに高まっている現状で、「台湾有事」を想定した場合、在日米軍の態勢見直しが主要テーマになっていないはずが無い。
「台湾有事は日本有事」
折しも台湾の蔡英文政権は10月、米軍の台湾駐留を公式に認めた直後であった。
そうしたなかの12月1日、岸田文雄首相は6日に召集される第207回臨時国会で行う所信表明演説で、外交・安全保障政策の基本方針「国家安全保障戦略(NSS)」を2022年末をめどに改定する意向を表明することが判明した。
奇しくも同日、安倍晋三元首相は台湾で民間のシンクタンクが主催したシンポジウムにオンラインで参加、基調講演で「台湾への武力侵攻は日本に対する重大な危険を引き起こす。台湾有事は日本有事であり、日米同盟有事でもある。この点の認識を(中国の)習近平主席は断じて見誤るべきではない」と述べたのだ。
台湾から招聘されていた安倍氏はこのシンポジウム出席を理由に台北を訪れて、滞在中に蔡英文総統との会談を検討していたのは周知の事実である。岸田首相は11月17日夕(国会内の安倍事務所)に続いて30日午後(首相官邸)の2回、安倍氏と差しで会談している。その中で安倍氏の台湾訪問は中国を必要以上に刺激するので思い留まるよう説得したとされる。
この一事を以って分かるように、米国NDSと日本NSS改定そのものが中国を標的とするものであり、中国の習指導部の過剰反応が際立っているのである。
バイデン大統領は中国の権威主義へのアンチとして民主主義を掲げ、12月9~10日の「民主主義サミット」(オンライン形式)を主催する。参加国・地域数は110に及ぶ。中国はもちろん、ロシア、トルコ、エジプトも招待リストに入っていない。
Leave a Reply
You must be logged in to post a comment.