米国株式市場の「金利騒ぎ」はもうたくさんだ
「金利上昇への懸念」はどこまで深刻なのか?
アメリカの株式市場は、相変わらずの金利騒ぎを続けているように見える。
4月21日には、ジェローム・パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長が、IMF(国際通貨基金)主催のイベントに参加したが、そこでの発言が市場を動かした。
パウエル議長は5月3〜4日に開催されるFOMC(連邦公開市場委員会)において「通常の倍の0.5%の利上げを検討している」が、「私の考えではもう少し速いペースで動くことが適切だ」とも語った。
「0.5%より『もう少し速いペース』は0.75%だろう」と解釈されたことから、急速な利上げ懸念が悪材料とされ、この日のNY(ニューヨーク)ダウは前日比で368ドル(1.0%)下がった。
説明がつかない「22日NYダウの981ドル安」
21日の動きはまだ理解可能だとしても、翌22日のNYダウは前日比で981ドル(2.8%)もの大幅下落を演じた。この下落の説明も、パウエル議長の木曜日の発言によるものだとされている。しかし、そうした解釈が正しいとすれば、発言当日の21日より22日の下落がはるかに大きくなったことは説明できない。
また、22日の滑り出しは、NYダウが前日比でごく小幅にしか下げていなかったし、金利上昇に弱いとされているナスダック総合指数は、寄り付きあたりは前日比で上昇していた。21日のパウエル発言を22日も市場が懸念していたとすれば、22日の市場の始まりあたりからすでに株価が大きく下げ続けていなければおかしいはずだ。
それより何より、肝心の債券市場において、同国の10年国債利回りは22日に前日比で小幅(0.008ポイント)ながらも低下している。いや、10年だけではない。3カ月、1年、5年など、30年債を除くほとんどの年限で、債券利回りは前日比で小幅低下している。「国債利回りが低下する金利上昇懸念」というのは、おそらく何かの冗談に違いない。
やはり、こうした先週末にかけてのアメリカの株価調整は、週末を控えて何らかの大きなポジション調整があったことなどによるものだろう。個別には、ネットフリックス株が19日に「会員数が減少に転じた」と発表し、そこから株価が大幅に下げていた。
このため、ほかの成長期待に支えられてきた銘柄についても、株価は本当に大丈夫なのかとの懸念が投資家の間で抱かれた、という面もあったと推察する。
短期的に騒ぎは続きそうだが、長期的には克服へ
こうした金利騒ぎについて、投資家は「もうたくさんだ」と、うんざりしているだろう。ただ、市場は騒ぐのが「商売」という点もあり、今後も短期的には、金利が上がろうと下がろうと株価がでたらめに上下動し、それに無理やり金利面からの理屈を後付けする、ということが続くだろう。
したがって、当面はドタバタとした相場つきに陥ると達観し、ゆったりと投資することが肝要だと考える。嘆いても仕方がない。
ただ、長期的に展望すると、金利懸念がアメリカの株式市場を揺らすことが徐々に少なくなっていく流れだと見込んでいる。それは、前回の当コラムと内容がダブるところがあるが、次のとおりだ。
まず、昨年11月から今年3月上旬にかけては、市場がまだ十分に景気や企業収益の先行きに自信を抱いていない中、国際商品市況の上振ればかりが進行した。そうしたインフレ懸念を受けて、連銀は11月にテーパリング(量的緩和の縮小)を開始し、12月にはテーパリングの加速とともに、「近いうちの利上げ」を示唆し始めた。
そこで市場は「とくに経済や企業収益が目覚ましくもないのに、インフレに対応するため、連銀が緩和縮小を急いでいる」との見解に支配された。このため、金利上昇が株価の痛手となった。
確かに、3月上旬以降はロシアのウクライナ侵攻に伴い、原油の国際指標であるWTI原油先物価格が一時1バレル=130ドルを超えて肝を冷やした。だが現在は1バレル=100ドル前後でやや落ち着いている。
また、アメリカにおける雇用情勢の強さも、当初は賃金インフレばかりに投資家の目が集まって懸念要因となっていた。ところが今は、賃金の伸びが個人消費を支えるとして、小売売上高の堅調さに関心が向かうようになっている。アメリカの株式市場でも、ビザ、ウォルマート、ホーム・デポ、P&Gなど、個人消費関連銘柄が物色される局面も、時折ではあるが生じている。
こうして、「景気や企業収益がよくないのに、インフレばかりが目立つので金利を上げる」という状況から、「景気がよいから金利が上がるのだ」、すなわち「企業収益はよいのだから、金利が上がっても株式を買ってもよい」という方向へ徐々に投資家の見解が変化しつつあるのだろう。短期的な株式市況の動揺は続きそうだが、次第にアメリカの株価は金利上昇を克服していこう。
なお、「もうたくさんだ(Enough is enough)」とうんざりしているのは、投資家だけではない。連銀高官も、自分たちの発言を針小棒大に騒いだり、まったく騒がなかったりする、市場の振る舞いについて、苦々しく感じていると聞いている。
このため、今後の連銀高官の発言については、引き続き緩和縮小ないし引き締めの加速を繰り返し市場に織り込ませつつも、「それでもアメリカの景気の腰はしっかりしている」とのメッセージについても一段と強調することが検討されているようだ。
「円安騒ぎ」は長期的な日本の深刻さを映し出している
一方、為替市場でも円安が急速に進行し、これが「悪い円安」ではないかと話題になっている。筆者は、日米間の物価対比、金利差対比の分析では、すでにかなり円安が行きすぎていると考える(そうした分析を詳細にここで述べるとかなり長くなるので、割愛する)。
また、先日はあるアメリカの投資家から「日本銀行の黒田東彦総裁が頑固に金利を上げないため、円安が止まらない。一方、岸田政権は国内の中小企業が円建てエネルギー価格の高騰で打撃を受け、政権への支持を失いかねないと、黒田総裁の姿勢に苦虫をかみつぶしているのではないか。したがって、参議院選挙前にでも黒田総裁の更迭があると見込むが、どう思うか」との問い合わせを受けた。
大概、こうした突飛な問い合わせがある局面は、投資家心理から推し量ると相場の転機であった、との経験が多い。
このように、筆者は長期的に円安がどんどん進むとは予想していないが、投機的な円売りの仕掛けが入りやすい地合いではある。そのため、日本の株式市場が「円安騒ぎ」でドタバタすることは今後もあるだろう。
もともとは、為替が円高になろうと円安になろうと、それぞれメリットもデメリットもあり、一方的に悪いことばかりというわけではない。ただ、現状のように国際商品市況のドル建て価格が上がっているところに円安が乗ると、コスト高により企業収益が圧迫されるという不安が出ることは理解できる。
もともと日本経済の腰が弱く需要が脆弱なので、企業がコスト増を価格に転嫁すると売れ行きががグンと落ちるという点も、頭痛の種となっている。
ただし、だからといって、円高方向に押し込む有効な手があるとは考えにくい。足元では、鈴木俊一財務相などから円安を牽制する主旨の発言がなされているが、投資家は「口先介入しても、実際にはどうせ何もできないだろう」と高をくくっているようだ。
その投資家の見込みを裏切って、実弾介入や場合によっては金融緩和の修正を行ったとしても、円買い介入をずっと続けるわけにもいかないだろうし、アメリカの利上げペースを上回るような利上げを日本で行えるわけでもない。投機の円売りを押し戻せるかは不透明だ。
円安を止めるには「投資に値する国になる」しかない
では、どうすれば円高方向に巻き戻せるかといえば、日本が「投資に値する国」になればよい。日本企業が収益力を高め、日本株に投資したくなる、日本企業の隆盛により日本経済が盛り上がって自然体で金利が上がり、日本に融資や債券投資したくなる、また景気拡大により不動産の価値が向上してJ-REITもしくは不動産を直接買う形で、日本に投資したくなる、という状況になれば、自然に円高に向かうだろう。
そうならないのは、日本企業や日本経済がダメだからであって、為替市場が悪いからではない。
日本企業も「円安だと困る、円高でも困る」と頭を抱え、おろおろしても、何の足しにもならない。重要なのは、円相場がどうなろうと収益を増大させるような企業体質を目指すことだろう。
それは、財務面でのテクニック(例えば、企業の財務部が機敏に為替先物でヘッジする、など)によるものではなく、世界の人々が、価格がいくらであっても、列をなし買い求めるような、魅力ある製品やサービスを生み出すことだ。それは新規の製品やサービスの開発でもいいし、既存製品・サービスの改善でもいい。
例えば何かの財政政策を政府が打ち出すと、それで日本経済は一発改善、といったような、安易な考えを唱える向きも多い。しかし、経済で付加価値を創造する源泉は企業活動であり、日本企業が大胆な付加価値創造をできない、あるいはやる気がないのであれば、どのような経済政策を打ち出しても無駄だ。また、企業経営がそうした体たらくなら、日本の株価も円相場も今後大きく上がることは難しくなる。
日本政府や日銀がするべきことは、前向きな企業の邪魔をせず(いたずらな財政縮小や金融引き締めを行わず)、やる気がある企業や起業家の成長の邪魔になる国内の諸法令・諸規則を改正し、国民生活を向上させる分野(耐震化、防災、防衛、IT環境の整備、前向きな教育や基礎研究の支援など)に資金を集中し、諸外国の日本に不利な規制を外国の政府に働きかけて変更させる、ということだろう。
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