<社説>米中間選挙 深まる民主主義の危機
人々の代表を選ぶ平和的手段である選挙をめぐって、恐怖と猜疑心(さいぎしん)が渦巻いた。米中間選挙があらためて浮き彫りにしたのは、危機にひんする民主主義である。事態の深刻さを憂慮する。
西部アリゾナ州では、メールやSNS(交流サイト)を通じ選管職員への脅迫行為が相次いだ。「おまえたち全員を処刑する」というものや、個人情報をネット上にさらすという脅しもあった。出勤途中に写真を撮影された臨時職員は、怖くなって辞職した。
銃で武装した男たちが郵便投票用の投票箱を近くで監視する出来事も起き、裁判所はやめるよう命令した。
トランプ前大統領は二〇二〇年の大統領選の敗北を認めず、根拠もなく「不正選挙」を言い張り続けている。この陰謀論を信じ込む支持者が過激な行動に走って社会には不穏なムードが漂い、暴力を懸念する空気が強まった。
ワシントン・ポスト紙によると、上下両院、州知事のほか、各州で選挙運営に携わる州務長官などに、トランプ氏の敗北を認めない「選挙否定派」の共和党候補が二百九十一人も出馬し、続々と当選を果たした。返り咲きに意欲を見せるトランプ氏には次期大統領選への足掛かりになる。
ロシアのウクライナ侵攻以来、米国は前年同月比8%を超えるインフレに見舞われ、バイデン大統領には苦しい選挙だった。
ウクライナ支援よりも国内の経済対策を優先すべきだという意見が共和党には目立つ。ウクライナ戦争で自由主義陣営をまとめあげてきた米国が及び腰にならないか、心配だ。
物価高という生活に直結する問題にかすんでしまったが、中間選挙で問われた最も大切なことは米民主主義の行方だった。法の支配や、選挙に負けてもその結果を受け入れる、という民主社会を成立させる大前提も含まれる。
そんなごく当たり前のことも怪しくなってきた。民主主義の土台が崩れつつある。立て直しへ米国の覚醒を望みたい。
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