Where Is Great Power’s Sense of Responsibility in America’s Budget Request?

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米国のトランプ大統領が、10月から始まる新たな会計年度の予算教書を示した。

 国防費は前年度より0・3%多い7405億ドル、日本円にして81兆円とする。米国とメキシコの国境の壁の建設費も追加で20億ドルを求め、インフラ投資にも積極的に取り組む。

 一方で、海外援助は約2割、環境予算は3割近くと大きく減らし、低所得者向けの公的医療保険や食費補助などの費用も抑える。このため、財政赤字は前年度より1割減らせ、今後5年間で半減できるという。

 本当に達成できると考えているのだろうか。

 トランプ氏は大統領に就任した3年前、「偉大な米国のための新たな基盤」と題した最初の教書で、10年後には財政黒字が実現するとした。

 しかし実際にはこの間、歳出は2割ふくらみ、6千億ドル台だった財政赤字も、リーマン・ショック直後に並ぶ1兆ドルを超える水準に達している。

 教書は、財政についての大統領の考え方を示すが、強制力はない。連邦政府の予算を実際につくるのは、議会だ。

 与党共和党の保守派は本来、財政規律を重視するはずだ。しかし議会の上院は共和党、下院は民主党が多数派を握り、双方の主張を盛り込まないと、折り合えない。その結果、共和党は国防費、民主党は福祉の増額を求め、財政拡大に歯止めがかからなくなっている。

 そのうえトランプ氏は、前回の大統領選の公約だった大型減税を進めたのだから、財政状況が改善するはずがない。

 教書が前提とする3%の経済成長率も、楽観的すぎる。米国の昨年の実績は2・3%だ。

 議会予算局が先にはじいた試算では、教書と正反対の先行きを予測している。現実を踏まえた成長率を前提にして、税収はさほど増えないと見込む。その結果、財政赤字は拡大基調をたどり、5年後には1・3兆ドルへふくらむとした。

 11月に大統領選を控えるトランプ氏は、支持者への配慮を強く意識し、国防費を維持しつつ財政は改善するというシナリオを描いたとみられる。低所得者向けの支出の抑制には、大統領選の予備選で社会保障の充実を競っている民主党との違いを際立たせる狙いもあるだろう。

 だからといって、教書は選挙に向けた宣伝ではない。実現性をかえりみない提案は、あまりにも無責任だ。

 米国は、基軸通貨のドルを発行する世界最大の経済大国だ。財政運営のゆくえが世界経済に与える影響は、大きい。その責任の重さを、トランプ氏は少しでも自覚するべきだ。

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