Waiting for Russian-American Relations To Thaw

<--

週のはじめに考える 米ロの雪解けを待つ

宇宙人の攻撃にはスクラム組んで立ち向かう−。

 米国と旧ソ連が角突き合わせた冷戦期に、初めて顔を合わせた両国の首脳がSFばりのことを話題にしていました。

 一九八五年にスイス・ジュネーブで会談したレーガン米大統領とゴルバチョフ・ソ連共産党書記長です=写真はロイター・共同。

◆宇宙人の攻撃に共闘

 三日間にわたった会談では、レーガン政権が打ち出した「スターウォーズ計画」と呼ばれる戦略防衛構想や核軍縮問題などをめぐって両首脳は激しく渡り合いました。レーガン氏がソ連の人権問題を突いてきたのに対し、ゴルバチョフ氏にはお説教に聞こえたのでしょう。「あなたは教師ではないし、私も学生ではない」と言い返しました。

 半面、両首脳には共鳴し合うものがあったようです。通訳だけが同席した席で、レーガン氏がゴルバチョフ氏に問い掛けました。

 「米国が宇宙人から攻撃を受けたら、(ソ連は)われわれを助けてくれますか」

 すかさずゴルバチョフ氏が「もちろんです」と応じると、レーガン氏は「われわれもです」と返しました。ソ連が攻撃された場合は米国も支援するというわけです。後になってゴルバチョフ氏が明かしたエピソードです。

 タカ派のレーガン氏はソ連を「悪の帝国」と呼び、欧州では東西両陣営が十分足らずで敵地に届く中距離核ミサイルを配備してにらみ合っていました。核戦争の懸念が深まり、欧米では反核運動が大きなうねりとなりました。

 そうした緊張下で開かれたジュネーブ会談ですが、これを機に米ソによるさまざまな軍備管理交渉が再始動。いろんなチャンネルで交渉を積み重ねる過程で、米ソは敵意を乗り越えて信頼関係を築いていきます。

 その結果、中距離核戦力(INF)廃棄条約をはじめ欧州通常戦力(CFE)条約、第一次戦略兵器削減条約(START1)といった画期的な軍縮合意に結実。会談から四年後の八九年には冷戦終結に行き着きました。

 同じジュネーブでこの六月、バイデン米大統領とプーチン・ロシア大統領が顔を合わせました。二〇一四年のロシアによるクリミア併合で一気に冷え込んだ米ロ関係は、冷戦終結以降では最悪レベルのまま行き詰まっています。

 のし上がった中国を「唯一のライバル」と見なすバイデン政権には当初、ロシアを軽んじる姿勢がちらつきました。ところが、この首脳会談を持ち掛けたのは米国の方です。中国との覇権争いに集中するために、ロシアとの間の緊張を緩和する必要があると判断したのでしょう。

 一方のロシアは隣国の中国と共同軍事演習を重ね、準同盟関係といわれるほど親密です。しかし、このままだと国力が格段に違う中国にのみ込まれてしまいかねない、という懸念もロシアから出ています。米中とのバランスをとる必要があります。

◆対話重ね信頼関係を

 バイデン・プーチン会談でも核軍縮を軸にした軍備管理やロシアの人権問題が議題になり、利害のある分野で互いに踏み越えてはならない「レッドライン」も話し合われました。その結果、決定的な危機や衝突にエスカレートしないように対立をコントロールしていく方向に双方は動きだしました。

 プーチン氏は会談後の記者会見で、バイデン氏と信頼関係を築けるかと聞かれて「家族のような信頼関係はありようがないが、(信頼の)きらめきはチラっと見えた」と言いました。手応えは感じたようです。

 無論、関係改善の道は容易ではありません。レーガン・ゴルバチョフ会談後に「雪解け」が到来したのは、新思考外交と呼ばれたゴルバチョフ氏の大胆な政策転換があったからでした。

 米ロが建設的な関係を築かないと、国際社会の利益につながりません。バイデン、プーチン両首脳が合意した核軍縮交渉を足掛かりに、対話を積み重ねて相互理解を深めていくべきです。

 三十六年前に米ソ首脳は人類共通の脅威として宇宙人の攻撃を話題にしました。今は気候変動、感染症のパンデミック(世界的大流行)が猛威を振るっています。米ロがこうした問題で協調する関係をつくってほしいものです。

About this publication