バイデン米大統領が就任から100日を前に、連邦議会で施政方針演説に臨んだ。「米国は再び動き出した」と述べ、トランプ前政権とコロナ禍のもとで深まった政治・経済・社会の混乱を収拾しつつあるとの自信を示した。
しかしバイデン氏の政策には、期待だけでなく不安も感じる。国際秩序の安定や地球規模の問題解決に指導力を発揮する米国への回帰は好ましくても、巨額の成長戦略や安全網の強化には危うさが残るといわざるを得ない。
バイデン氏は演説の大半を内政問題に充て、2億回をゆうに超えたワクチン接種の実績などを誇った。なかでも力を込めたのは、大型の財政出動による成長力の強化と中間層の底上げである。
コロナ対策を盛った「救済計画」に続き、インフラ整備や温暖化防止を目指す「雇用計画」、福祉や教育を拡充する「家族計画」の実現も急ぐ考えを示した。これらの総額は6兆ドルにのぼる。
デジタル化やグリーン化に成長の糧を求め、その恩恵を低中所得層にも行き渡らせるため、政府の役割が重要性を増しているのは確かだ。ただ巨額の支出が景気の過熱やインフレを誘発し、過剰な介入が経済全体をゆがめぬよう、細心の注意を払う必要がある。
バイデン氏は雇用計画と家族計画の財源を、企業と富裕層に絞った増税で賄いたいという。所得や資産の大きさに見合った適正な負担を要請し、財政の悪化に歯止めをかけるのは理解できるが、増税が2つの計画の効果を相殺する可能性はないのだろうか。
バイデン氏はこれらの具体化を慎重に検討すべきだ。財政政策のさじ加減を誤り、米国や世界の経済を危険にさらすのでは困る。
バイデン氏は経済や技術、安全保障を巡る中国との競争に勝ち抜く決意も新たにした。米国のインド太平洋地域への関与や、同盟国との連携強化をうたったのは歓迎だ。日本も地域の平和と繁栄にできるだけの貢献をしたい。
温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」への復帰や、世界保健機関(WHO)からの脱退撤回は、バイデン外交の得点だろう。これに終わらず、自由貿易圏の拡大などにも積極的にかかわるべきだ。
国内では政党や人種を巡る分断が深刻である。バイデン氏は与党・民主党とその支持基盤の要請にこたえるだけでなく、米国全体の融和にもっと心を砕いてほしい。
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